●怖い噺 七


□細い山道
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10年ほど前の話

友人が出産したんで、里帰りついでにお祝いを持って行くことにしたんですよ
私の実家は大阪でもかなり北部で、友人は小学校からの同級生です
長く病気をしていてやっと授かった子ですから、これはもぅお祝いしなきゃと思い、千葉から実家に行ったんですよ

んで、友人の家に電話をし、何時に行くからと行って家を出たものの、すっかり地形は変わってしまってたんです

田んぼは潰され、小川は溝になって蓋をされ、池は埋め立てられて、よく遊んだ空き地は駐車場になっていました

でも、友人の家に行く近道の細い山道だけは残ってたんです

その道の途中にはお墓がありましたが、慣れた道なので怖いとも思いませんでした

そこを通りお墓が近づくと、1人の女性が座ってたんですよ
きっと誰かのお墓にお参りしているんだ・・・と思い、通り過ぎようとしました

そしたら声をかけられ「マッチを持っていませんか?」と言われたんです
『お線香でも付けるんだろう』と思ったんですが、マッチは持っていなかったんで、100円のライターをあげました

渡そうと思ったらライターが落ちたんで、拾うのに座ったら、その人が裸足で靴も履いてないことに気づいたんです
一体どうしたんだろう・・・と思いましたが、プライベートなことだし聞けないけど、山道は小石も多いんで怪我をすると思い、予備に持っていた靴下も渡したんですよ

お返ししますからと言われましたが、そんなに高いものじゃないし、遠慮せずに・・・と友人の家に向かったんです

久しぶりに会う友人と、かわいい赤ちゃん、ご両親も健在で楽しい時間は過ぎてそろそろ帰るというとき、先ほどの山道の話しをしたんですよ

そしたら、みんなそのまま固まってしまったんです
友人の弟さんが「その道はとっくにないよ」とか言い出すし

まさか〜と言ったら
「あの道はとっくに舗装されて、今はその辺一体は工場になっているし関係者以外立ち入り禁止なはず」
「そんなはずはないよ、さっき通ってきたんだから」
「じゃあ見に行く?」
と言われ、送ってもらうついでに見ると、山道はなくなり、フェンスに区切られて大きな工場が建っていました

そのフェンス沿いに舗装された道路が出来て、山道よりも近くなってたんです
この道は私は知らず、普通にいつも通りに山に入ったはずでした
でも、普通通りに入ったら、フェンスで区切られ、従業員駐車場に当たるんですよ

じゃあ私は、一体どの道を通ったのか?

「あのお墓は?裏でくわがたが取れるお墓はどうしたの?」
「とっくに移動されたよ、かなり昔の話だけど」

千葉に引っ越して10年、実家には帰ってもお嫁に行った友人の実家には一度も行かなかったんで、工場が出来たなんて知らなかったんです

じゃあ・・・お墓にいたあの人は・・・?

実家から帰って1ヶ月ほどしたとき、母から手紙が来ました

そこにはちゃんと洗ってある靴下と、半分無くなったライターが入ってありました

手紙には名前は書かれていなくて、ありがとうございましたとだけ書いてあったとか

それがポストに入ってたそうで、姉も妹も知らないと言ったことから、私だろうと手紙に同封したようです

通れるはずのない道に、会えるはずもない女性

けど、靴下とライターがあるってことは、間違いなく私はその女性に会っているんですよね

何度思い出しても不思議な話です

−終わり−

悪い方ではなくて良かった良かった

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