●怖い噺 七


□エレベーター
1ページ/1ページ


私は今年の夏はずっとバイトをしようと決めてました
夜は警備員のバイトをしてそのまま朝、新聞配達をして寝るという生活が続きました

ある日、社員の人が
「10分ほど行った所にあるビルなんだけどちょっと異常があったから見回ってくれない?バイト代に色付けるから」
と言ってきたので一緒にまわる友人…仮に友人をAとしましょう
Aと二つ返事で承諾しました

その時はさほど変には思わなかったのですが普通、時給のバイトに+でバイト代を出すなんて今考えればやっぱり変ですよね

異常があったのは5階建ての雑居ビルで見た目からしてなんか出そうな所でした

表の鍵は掛かっていました
もちろん裏もカギは掛かっていました

鍵を開けて私とAは中に入りましたが異常があったとされる1階は何もなし

一応各フロアも回るようにと言われていたので私と友人は各階ごとに一人が見まわり、もう一人が非常口が見えるエレベーターホールに待っていることに決めました

そして5階は友人が見まわり4階は私がということになりました

5階は普通のオフィスでAが見回っている間私は非常口のドアは?とノブを回したのですがカギが掛かっているのか開きませんでした

Aが「異常ないよ。こりゃもうけたな」と笑ってホールに戻ってきました

次は4階私が見回る番でした
階段が使えなかったのでエレベーターで4階へ
そこは倉庫として使っているのかホールにも段ボールが積んでありました

さて行くかっと思ったその時、私の携帯に会社から電話が入りました
アンテナが1本しか立ってなく、やばいかなーと思いながら出るとすぐに切れてしまいました
表示は圏外

Aはここで待って私は外に出て電話をかけ直すと言うことになり、何の気なしに非常口のノブをひねると開きました

5階で非常階段を見回ってなかったので、私は階段で行くことにしました

5階は異常なし
4階に戻るとAが「慎重すぎる」と笑いました
3階ここも非常口のドアは鍵が掛かっているらしく開きませんでした
2階も同様に鍵が掛かっていて開きませんでした
1階に着いたとき携帯がまた鳴り表示を見ると会社から
アンテナは3本立っていました

「あれ?」っと思い出ると社員の人がAの事をしきりに聞くので
「普通ですよ。どうしたんですか?」
と聞くと、さっきから何度もAの携帯番号で会社に何回も電話がかかって来ているらしく

しかも出ると必ずザーっと言うノイズ音しか聞こえないので何かあったのか?と言うのです

「いや、何もないです。Aの携帯の故障じゃないんですか?」
っと笑いながら言うと「なにも無いならいいんだ」と言って切れました

階段で4階まで行くのは疲れるのでエレベーターで行こうと上ボタンを押したのですが、
一向にエレベーターは4階から動きませんでした

私はAが悪戯してるのだと思い仕方なく階段で4階まで戻りました

Aはエレベーターホールにはいませんでしたエレベーターを見ると1階に

Aが私を驚かそうとしてどこかに隠れているのかな?と思い一応4階を見回ったのですが何処にもいませんでした

先に3階を見に行ったのかな?とエレベーターを呼び乗り込むとAの携帯がエレベーターの中に落ちていました

Aの奴帰ったのか?と思い私一人で残り3フロアを見回りました

終わったー疲れたーもう帰ろう
このとき重要な事を思いだし脱力しました

この場所には会社の車で来たのですが、運転はAが、私に至ってはバイクなら運転できるのですが車は運転出来ない

これじゃあ帰れないじゃないかと思い外に出ると案の定会社の車はそこにありませんでした

仕方なく私は歩いて会社へ戻りました

その日Aは私を置いて会社へ帰りそのまま仕事を辞めてしまったそうです
会社の人は私にもう帰っていいよと言いました

何か釈然としないものを感じましたが臨時収入をその場で渡されたので「まぁいいか」と結局そんなふうに思ってしまいました

制服を仕舞うときポケットの中にAの携帯が
返すの忘れてたのを思い出しました
忘れてたというのか会えなかったってのがホントの所なんですが…

Aは自宅に電話を引いてないので携帯がなきゃ大変かな?なんて思い文句ついでに届けてやろうと新聞配達後Aの自宅へ行きました

Aの家はかなりボロいアパートの二階の階段前
寝てるけどいいよねっとチャイムを押しましたが出てくる気配なし。何回も押すと近所迷惑だろうなぁーと思ったので夕方にでも来てみようと私は家に帰って寝ました

私は電子音で叩き起こされました

時計を見ると7:30
鳴っているのはAの携帯でした
仕方なく私が出ると電話相手はAの母親でした

Aが家にいないそうなのでまだ眠かったのですがAの母親に携帯を渡せばいいかと思い、
またAのアパート に行きました

チャイムを押すとすぐにAの母親が出てきました

ドアの隙間からAの部屋の中がチラッと見えたのですが変な柄の壁紙が張ってありました

私は携帯を渡してそのまま帰るつもりだったのですが誰かが階段を登ってくる音が聞こえると、Aの母親は「ここじゃなんだから」っと私を部屋に入れドアを閉めたのです

中に入った時、私の顔は真っ青だったと思います

それは、その変な柄の壁紙は、壁紙だったのではなく指から血が出ても壁紙をかきむしり続けた…そんな痕だったからです

それが壁一面にあったのです

Aの母親は「ペンキでも塗らないとダメね」と雑巾でこすりながら苦笑しました

Aの母親の話ではAはあの仕事中に人を殺してしまったとAの母親に電話を入れたそうですが、途中で叫び声と共に電話が切れてしまったそうです

その後何度電話しても話し中で、父親と話し合い彼の母親が始発電車でAの所へ来たそうです

そして管理人さんに電話を借りてAの携帯へ電話したそうなのです
それを僕がとったというわけです

あいにくAの部屋の両隣は留守で、中で何があったかは分からないのだと言っていました

そして先日

Aから電話があり、会うことになりました

Aはまるで別人の様な顔つきになっていて
はっきり言って喋るまで本当にAなのか?とさえ疑うほどでした

実はAから電話があった後、彼の母親から電話があり「Aがあなたに何を言っても、すべて『Aが疲れていたせいだ。只の幻覚』だと言ってくれ」と言われていました

その言葉にAは普通では考えられないような事を言うのだろうと覚悟は決めていました

彼が語った話とは…

あの日、私がAと4階で話し階段で下に向かっているときエレベーターが1階に降りていったそうです

Aは私がダッシュで階段を下り自分を驚かせる為にエレベーターで上に上がって来るのだと思い、逆に驚かせてやるつもりになったそうです

そしてエレベーターの前で扉を背にして立っていました

エレベーターが開く音、誰かがゆっくりAに近づく感じ…
しかしそのとき非常口のドアが開く音がしたんだそうです

Aはあれ?と思い振り返りましたが、その目には非常口が閉まったところしか見えなかったそうです

まさか泥棒!?と思ったAは急いで非常口のドアを開けたそうです
すると扉が何かに当たり
懐中電灯で見るとそこには髪の長い女が倒れていて

しかもその女の体はうつぶせであるにもかかわらず
頭はほぼ上を向いていたそうです

Aは怖くなってエレベーターに駆け込むと
その中から母親に電話をしたそうです
「人を殺した」と

その時スーっとエレベーターのドアが開いたそうです

そこには頭がいやな方向に曲がった女が、はいつくばりながらいたそうです

エレベーターのドアは閉まるが、女の腕に邪魔をされてまた戻る
そんなことが何回か続いたそうです
そして女は立ち上がり曲がった頭をAの方へ向け

憶えたからね

と言ったそうです

Aは女を突き飛ばし
そして(私が1階でボタンを押していたので)エレベーターは1階に

Aは無我夢中で会社へ逃げたそうです

いきなり会社を辞めバイクで急いで家に帰ったそうですが部屋にいても女がやってくるのでは?と言う考えが頭を離れず部屋から逃げ出したそうです…鍵もかけずに

Aが後になって下の住人から「朝までガタガタ何やってたの?」と言われたときは、あの女が来たのだと思ったそうです

その話を聞いて私は嫌な汗が出ました

下の住人の話からすれば私がAの部屋に行ったときもAの部屋にはソレがいたってことですよ

玄関には鍵が掛かっていなかったんです
これがサスペンスドラマなら私は必ずドア開けてますよ
もしも本当にそうしていたら、私はソレを見てしまったのかもしれないんです

…Aは今はそのアパートを出て違う所に引っ越したそうです

臨時収入をつけてくれると言った会社が、このことを知っていたかどうか
それはわかりません

私の結論

・エレベーターは必ず前を向いて待ちましょう
・ドアはゆっくり開けましょう
・人の家のドアはどんな時でも開けようとしない

けれどソレが人間でなかったとすれば(そうとしか考えられませんが)結局は何をしても無駄なのかもしれません

そこの扉を開けたときソレに当たらない保証があなたにはありますか

−終わり−

この噺を読んで皆さんはどう思いましたか?

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ