●怖い噺 七


□オフ会で
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ネットで知り合った8人の若い男女がオフ会をやる事になった

ほとんどがリアルでの面識は無い者ばかりで多少の不安もあったが
みんなで集まって遊園地で遊ぼうという事になった

そして当日になり待ち合わせの場所に次々と参加者が集まってきたがAという名前の男がなかなかやって来ない

仕方がないので7人で行こうかという事になった時いつのまにか1人の若い男が近くにいるのに気づいた

そこでもしかしたらと思い声をかけると「じゃあ、行きましょうか」と言って彼は立ち上がった

やけに不自然な言動だったが、その時はみんなじれていてたいして気にも止めなかった

お互いに簡単に自己紹介をした後みんなで遊園地へ入り最初の内はぎこちなかった彼等もやがてワイワイと賑やかに遊ぶようになったが、Aだけはどこか打ち解けないところがあった

普通に話はするし他の人に話題を振られても反応はするのだが、どうも相手を見下して馬鹿にしてるような雰囲気があった

チャットやBBSでは、もっと積極的に話を盛り上げるキャラだったはずなのに、そのリアルでの性格のギャップにみんな不審を抱いていた

しかしネット上でもAは自分の事だけはあまり語らなかったので、一体どういう人物なのか誰にもよく分からなかった

その為一度は盛り上がった場もなんとなくしらけてしまい、日が暮れて今回はこれでお開きにしようという事になった

ところがそれぞれが別れて帰るという時になると、Aは「僕と同じ方向へ行く人がいたら車で送りますよ」と言った

ほとんどの人は電車で来ていたがAは車で来ていて近くに止めているらしかった

確かにこれまでのAの冷めた調子には気に食わないところもあったが、彼の言葉に甘えれば電車賃がタダになる

結局Tという男とSという女がAの車に便乗させてもらう事になった

こうして初対面3人の夜のドライブが始まった…

Aの車は中古らしいがかなり手入れがゆきとどいていた

TとSは後部座席に座りAの運転を見守っていたが、Aは変にかっこつける事もなく安全運転を心がけていた

車はやがて郊外に入り片側二車線の道に入った

まだそんなに遅い時間でもないのに彼等の乗った車以外はほとんど無く窓の外には明かりがほとんど見えず時折ガソリンスタンドや自販機の光が見えるばかりだ

車内でTとSはたわいない雑談をしていたが、Aは自分からは何もしゃべろうとはせず時々話を振っても軽く受け答えするだけだった

窓の外は暗い林がずっと続いている

よく見るとたくさんの石の地蔵が並んでいる

ライトの光に浮き上がるそれはひどく異様だった

頭が酷く欠けているもの、口に亀裂が入って不気味に笑ってるように見えるもの、顔が真っ二つに割れているもの1つとしてまともなのが無いのである

異様な光景に気づいたTとSは気分が悪くなり、さらに嫌な予感がした

「この辺りは結構出るそうですよ」
珍しくAが自分のほうからボツリと言った
「…出るってなにが?」
「出るんだそうです」
「…だから、何が?」
Tが尋ねてもAは何も言わない

「あのう、この車さっきから同じところを走ってませんか?」
窓の外を見ていたSが言った
「ほら、あのガソリンスタンドと自販機さっきも通りすぎましたよね」
確かに彼女が指差す先にはそれらの明かりが通りすぎてゆく

「そんなことはないですよ」
答えたのはAだった
抑揚のない棒読み口調だった

「この道路は一本道ですからね、曲がってもいないのに同じところは走れませんよ。郊外の道なんてみんな似てますからね。気のせいですよ」
Aは初めてと言っていいくらいペラペラとしゃべり、最後にヒヒヒッと低く笑った

その笑い声を聞くとTもSもそれ以上何も言えなくなった

しばらく沈黙が続いた後Aは手をのばして何やらゴソゴソやるとテープを取り出した

「何かかけましょうか」
Aはテープをカーステレオに押し込んだ

ところが音楽が流れてこないのである
2、3分たってもまったく何も

沈黙と圧迫感に耐えかねたTが口を開いた
「…何も聞こえないんだけど」
「…」
「…ちゃんと入ってるの?」
「…」
「…ねえ?」
「聞こえないでしょう?なんにも」
「…ああ」

「深夜にね、家の中でテープをまわしておいたんですよ。自分は外出してね。家の中の音を拾うようにテープをまわしておいたんです」

「…なんでそんなことしたわけ?」
「だって留守の間に何かが会話しているのが録音できるかもしれないでしょ」
「…何かって…なんだよ?」
「…」
Tは初めて相手が答えなくて良かったと思った

それ以上Aと会話してはいけないと思った

するとSが突然悲鳴をあげた
窓の外にはまたあの不気味な地蔵が並んでいたのだ

「おい、とめろ!」
Tが叫んだがAは何も言わない
「とめろ!」
さらにTが叫ぶと静かに車は止まった
TとSは転がるように車から降りた
車はすぐに再発進して遠ざかっていった

残されたTとSが辺りを見まわすと2人は顔を見合わせて顔面蒼白になって震えた

そこには石の地蔵など無く
それどころか彼等が遊んだ遊園地のすぐ近くだった

一本道をずっと走ったのにどうやって戻ってきたのか全く分からなかった

それだけではなかった

あとで他の参加者に連絡を取ろうとしたら、なんとAは時間を間違えて待ち合わせの場所へ来て待ちぼうけを食らってそのまま帰ったといういうのだ

だとしたらオフ会に参加したあの男は一体何者だったのか?

後日Tはほとんど同じ道をたどる機会があったが、道路の何処にも石の地蔵など無かったという…

−終わり−

オフ会ってリスク高いですよね…

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