●怖い噺 八


□メモと子供
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うちは競売にかけられた不動産の調査を請け負ってる会社なんだけど、こないだ前任者が急に会社に来なくなったとかなんだかで、やりかけの物件が俺に廻ってきた

まぁ正直うちの会社は、とある筋の人から頼まれた”訳あり物件”を取り扱うようなダーティなとこなもんで、こういうことはしょっちゅうだからたいして気にもとめず、前任者が途中まで作った調査資料(きたねーメモ書き)持って遠路はるばる田舎までやって来たわけですよ

その物件はかなり古い建物らしく壁とか床とかボロボロであちこちにヒビが入ってたり、湿っぽい匂いがしたりで、相当テンション下がってたんだけど、まぁとにかく仕事だからってことで気合入れ直してせっせと調査を始めたわけです

1時間くらい経った頃かな、ふと窓から外を見ると一人の子供が向こうを向いてしゃがみこんでなにやら遊んでるのに気づいた

よそ様の庭で何勝手に遊んでんの?って注意しようかと思ったんだけど、ぶっちゃけ気味が悪かったんだよねその子

なんか覇気がないというか微動だにしないというか、一見すると人形っぽいんだけどしゃがんでる人形なんてありえないし、でもとにかく人って感じがしなかった

田舎だけあって辺りはありえない位に静まり返ってるし正直少し怖くなったってのもある

建物の老朽化具合からみて3年はほったらかしになってる感じだったのでそりゃ子供の遊び場にもなるわなと思い直し

「今日は遊んでも良し!」

と勝手に判断してあげた
人の家だけど

んでしばらくは何事もなく仕事を続けてたんだけど、前任者のメモの隅の方に

・台所がおかしい

って書いてあった。調査資料はその書き込みのほとんどが数字(部屋の寸法等)なのでそういう文章が書いてあることにかなり違和感を感じた

で気になって台所の方へ行ってみると、床が湿ってる以外は特におかしそうなところはなかった

でも向こうの部屋の奥にある姿見っていうの?全身映る大きな鏡に子供の体が少しだけ映ってた。暗くて良くわかんなかったけど間違いないさっきの子供だ

そうか、入ってきちゃったんだな。とぼんやり考えてたけど、ほんと気味悪いんだよねそいつ

物音1つたてないし辺りは静かすぎるし、おまけに古い家の独特の匂いとかにやられちゃってなんか気持ち悪くなってきた

座敷童子とか思い出したりしちゃって

もうその子を見に行く勇気とかもなくて、とりあえず隣にある風呂場の調査をしようというかそこへ逃げ込んだというかまぁ逃げたんだけど

風呂場は風呂場でまたひどかった。多分カビのせいだろうけどきな臭い匂いとむせ返るような息苦しさがあった

こりゃ長居はできんなと思ってメモを見ると風呂場は一通り計測されてて安心した
ただその下に

・風呂場やばい

って書いてあった

普段なら「なにそれ(笑)」ってな感じだったんだろうけどその時の俺は明らかに動揺していた

メモの筆跡が書き始めの頃と比べてどんどんひどくなってきて震えるように波打っちゃっててもうすでにほとんど読めない

えーっと前任者はなんで会社に来なくなったんだっけ?病欠だったっけ?

必死に思い出そうとしてふと周りを見ると閉めた記憶もないのに風呂場の扉が閉まってるし、扉のすりガラスのところに人影が立ってるのが見えた

さっきの子供だろうか?

色々考えてたら、そのうちすりガラスの人影がものすごい勢いで動き始めた

なんていうか踊り狂ってる感じ?頭を上下左右に振ったり手足をバタバタさせたりくねくね動いたり。でも床を踏みしめる音は一切なし。めちゃ静か

人影だけがすごい勢いでうごめいてる

もう足がすくんでうまく歩けないんだよね

手がぶるぶる震える

だって尋常じゃないんだから、その動きが人間の動きじゃない

とは言えこのままここでじっとしてる訳にもいかない、かといって扉を開ける勇気もなかったので、そこにあった小さな窓から逃げようとじっと窓を見てた

レバーを引くと手前に傾く感じで開く窓だったので開放部分が狭くはたして大人の体が通るかどうか

しばらく悩んでたんだけど、ひょっとしてと思ってメモを見てみた

なんか対策が書いてあるかもと期待してたんだけどやっぱりほとんど読めないしかろうじて読めた1行が

・顔がない

だった…誰の?

そのときその窓にうっすらと子供の姿が映った気がした。多分真後ろに立ってる

いつの間に入ったんだよ

相変わらずなんの音も立てないんだなこの子は

もう逃げられない。意を決して俺は後ろを振り返る

そこには…なぜか誰もいなかった

会社に帰った後に気づいたんだけどそのメモの日付が3年前だった

この物件を俺に振ってきた上司にそのことを言うと「あれおかしいな、もう終わったやつだよこれ」って言ってそのまま向こうへ行こうとしたんですぐに腕をつかんで詳細を聞いた

なんでも顔がぐしゃぐしゃに潰れた子供の霊が出るというヘビーな物件で当時の担当者がそのことを提出資料に書いたもんだからクライアントで

「そんな資料はいらん」

と言ってつき返してきたといういわくつきの物件だそうだ

清書された書類を見ると確かに

「顔がない」
とか
「風呂場やばい」
とか書いてあった

まぁこういった幽霊物件は時々あるらしく出ることがわかった場合は備考欄にさりげなくそのことを書くのが通例になってるそうだ

他の幽霊物件の書類も見せてもらったがなるほどきちんと明記してあった

なんで今頃こんなものが出てきたんでしょうかね?

と上司に聞いたら「んー、まだ取り憑かれてるんじゃないかな。当時の担当者って俺だし」

−終わり−

曰く付きの物件…ワクワク♪

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