●怖い噺 九
□布団に寝ているのは?
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今から十年近く前の話です
私は当時学生で、地方の某大学の近くで一人暮らしをしていました
私の部屋は友人たちの溜まり場になっていました
鍵も長期に部屋を離れる場合以外には開け放してあったので、私がいない間に友人が勝手に上がりこんでいることも、珍しくありませんでした
ずぼらな話ですが田舎育ちだったせいか、その手のことはあまり気にならなかったんですね
秋ごろの話です
深夜にさしかかるころ私がバイトから帰ってくると、友人が私の布団で勝手に眠りこけていました
いくら勝手に上がりこまれることが日常とはいえ、布団に入って寝ているのははじめてだったのでちょっとびっくり
来客用の長い座椅子ソファーみたいなのがあったので、そっちで寝てもらうのが暗黙の了解のようになっていたからです
が、まあ気にしないことにしてもうちょっと寝かせておいてやることにしました
友人は布団をほとんどすっぽりかぶるようにして頭のてっぺんぐらいしか外に出ていない状態です
コンビニ弁当を食いながら「こいつ、Kかな? Sかな?」と考えました
布団の髪の毛が黒髪だったので、親しい友人のうちで黒髪と言えばこいつらのどっちかだろう、と
結局髪の毛だけでは区別がつかず、まあいいやと風呂に入りました
風呂から出ても友人はまだ寝ています
仕方がないので起こしてソファーに移ってもらうことにしました
「おい、俺そっちで寝るからお前はソファーで寝ろよ」
声をかけるとヒュッと頭が布団の中に引っ込みました
なんと言ったらいいか、うるさくて布団をかぶりなおしたとか、自分から布団の中にもぐりこんだという感じではありませんでした
ただ本当に布団の中から誰かに勢いよく引っ張られたという感じで頭がヒュンと入っていったのです
当然布団には一人分のふくらみしかなく、誰かが隠れている風でもなかったし
隠れていたとしても布団の外から悟られることなくそんな芸当ができるとは思いません
「……!?」と思ったもののまだ事態をよく飲み込めず私はしばらく布団を眺めていました
ちょっとすると突然強烈な不安がこみあげてきました
もう一度友人に声をかけましたが返事はありません
布団は微動だにせずです
その時点で得体の知れない怖さに腰が抜けそうになっていましたが、ともかくそれを打ち消したい思いの方が勝っていました
「おい、なんのいたずらだよ」
私は布団に近づいて、めくりあげようとしました
どうせ中には友人がいて私を驚かせる気なのだと思いました
そう思い込もうとしたという方が正しいです
布団に近づいた瞬間でした
またヒュンと頭が出てきたのです
「ヒッ……ィッ」みたいな声をあげてしまいました
大声で叫びたかったのですが声が出ないというかなんというか…
今度は額と目が見えていました
目はカッと見開かれてこちらをまっすぐ見ていました
気絶するかと思いました
その目を見ただけで絶対にこれはKやSではない、それどころか人間ではないと直感しました
その後のことはよく覚えていないのですが気づくと近くのコンビニでパジャマ姿で泣きながら友人に電話をかけていました
(携帯電話は持っていたのですが部屋に置きっぱなしにしてきたのだと思います)
友人はすぐにかけつけてくれて二人で確認もしましたが特に異常なし…
布団は誰かが入っているように膨らんでいるだけで誰もいませんでした
結局あれがなんだったのかよくわからないままです
ただ鍵をかけるようにはなりました
冷静に考えると鍵をかけたからといってそういうものが入ってこなくなるというわけでもないのでしょうが
少なくとも生身の人間との区別は早めにつくだろうと思ったからです
−終わり−
開けておくと入ってくるモノが居る…