●怖い噺 壱


□ハカソヤ
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とにかく女性限定の習慣なので、男性もいる席でおめでたいことが判明したりしたら、

台所とかに呼んでこっそり「ハカソヤ、ハカソヤ」
と言ったり、とにかく男性にはハカソヤは徹底的に隠されます


私がもらったハカソヤは見た目はどこにでもあるような安産のお守りです


ある日私はハカソヤのお守りを開けてみました


入っていたのは形付けの厚紙と、小さい古びた布キレだけ
二〜三センチほどの、目の洗い木綿かガーゼのような布で、その半分ほどが茶色い染みで染まってて、乾いて固まってベコベコと波打っているずいぶんと古い布のようで、地の部分も黄ばんでいました

一体これは何なんだろう?

私は妙な方向に思考をめぐらせていました
生理の時汚れたショーツを放置しとくとこんな固まり方するんだよね…布が変な並打ち方して固まって…てことはこれ…血…?
でも一人前のはなむけのお守りになんで血のついた布切れなんか?

どうしても気になったので、叔母に電話してみました
「あれは何なの?あの布は、あの染みは」
叔母は、あれ、知らなかったっけと言う風に、さらりと言いました

「何って、血よ。女の子の。ハカソヤは男にひどいことされないためのお守りだって、教わらなかったの?」

叔母がしてくれた説明はこうです

儒教が伝わる以前はどこの地方でもそうだったらしいけれど、日本はものすごく性に関してフリーと言うか、他人の奥さんを何か物でも借りるみたいに借りては犯して、生まれた子は皆で村の子として育てるみたいな感じで、夜這いなんかも堂々と行われていたのが当然だったとか

その集落は依然としてこんな女性に辛い気風が残っていたそうで
山奥にあるので情報が伝わりにくかったのと、この地方は貧しいし、冬には農作業も出来なくて、娯楽ややることががセックスくらいしかなかったのが関係してるのではと思います

とはいってもそんな大勢の男に好き放題されて、十月十日誰の子ともおぼつかない子供を孕まなければいけない女性の苦悩は並大抵ではなかったでしょう
そこで女性達が鬱憤晴らしのためか、それとも本当に男達に復讐しようとしたのかは分かりませんが、作り出したのがハカソヤだそうです

作り方は…死産で生まれた女の子の膣に、産婆さんが木綿布を巻きつけて指をぎゅっと突っ込み、血が染み出たら、布をねじり絞って全体に血の染みをうつす


それで一人でも多くの人にお守りが多く渡るようにしたんだそうです
血のついた部分が入るように、お守りに入る程度の大きさに切って出来上がりこれがハカソヤの中身になります


このハカソヤはいわゆる女性の貞操のお守りです
強姦や望まぬ妊娠で悲しむことがないよう、おそそ(女性器)が血を流すことの
ないよう、幸せな破瓜を迎えられるようにという願いがこもっているそうです



ハカソヤの役目はもう一個
ハカソヤさえあれば例え手篭めにされても、男に呪をかけて復讐することが出来ると信じられていたそうです

とある女が村の男に迫られて強姦されましたが、無理やりされていることの最中じゅうずっと「ハカソヤハカソヤ」と唱えていたら、男がいきなり内臓を口から吐いて死んだという言い伝えがあったようで

ハカソヤの語源はは「破瓜・初夜」のもじりじゃないか?だとか、「(男に内臓)吐かそうや」だったり「(男に一泡)ふかそうや」だとか、「私を傷つける『粗野』な男は殺してしまえ(墓)」だとか、諸説あることも一緒に叔母から聞きました



「じゃあ私はそんな呪いの言葉をめでたいめでたいって意味で使ってたの!?」
と驚くと、叔母はあわてて訂正しました
「ハカソヤが向くのは男だけよ。女の人に向けていったら『幸せなはじめてを経験できるといいね』って意味になるから大丈夫。だから男の人に聞かせたらいけないんだけどね」


昔は結婚まで性交渉なんかしなかったでしょうから、結婚する人に向かっては悪意などない、祝福の言葉以外の何者でもなかったようです


今では婚前のセックスなんて当たり前のようになってしまったから、形骸化した挨拶になってしまっているようですが




−終わり−



ハカソヤは女性のお守りだそうです

皆さんも女性には優しく紳士的に振舞ってくださいね

強姦なんてもってのほかです

最低の犯罪ですよ

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