●怖い噺 参


□母が縁の下から
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終戦から幾らもたってない頃と思われます

当時の家は、台所が土間のままってのいうのも多かったんですね

タクシー運転手の奥さんがまだ五才になったばかりの子を残して亡くなった

父親は仕事ででかけている時間が長くそのあいだ隣の家に子どもを預けていたのだけれど深夜になっても帰ってこないのものだから親切で面倒をみていた隣人もさすがにしびれを切らして子どもをひとりの家に帰してしまうことも多かった

子どもは寂しくて父親が帰ってくるまで親の名を呼んで泣いていたそうだ

ある晩子どもの泣き声がぴたっと止まり笑い声が聞こえてきた

隣人は「ああ父親が帰ってきたのだな」と納得したのだけど、そのしばらくあとに父親の帰宅する音が聞こえてきて「父ちゃんおかえり」と子どもが出迎えている

そうした夜が何晩かつづいて不審になった隣人はある晩子どもの様子をみにいった

子どもは暗い部屋でひとりで喋っては笑っている。その様子がだれかと話しているもののようなので翌日父親にそのことを話した

父親は子どもに毎晩だれと話しているのかとたずねた

「母ちゃんだよ。おいらが寂しくて泣いてると母ちゃんがきてだっこしたり、頬ずりしたりしてくれるの」

「それで母ちゃんはどっから入ってくるんだ?」

子どもは土間の縁側を指さした

「あの下から、にこにこしながら這ってでてくるよ」

それから父親は仕事をかえて早く帰宅するようになったそうだ

−終わり−

縁の下から出てくるお母さんで元気付く子供…そのお母さんはまさに縁の下の力持ち(オイッ
まぁ兎に角母の愛を感じます

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