●怖い噺 参


□ヒトナシ坂
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俺は週末に中学で仲良くなった友達Aのところに泊まりに行くことになっていた

Aの家はI山という山の中腹にあって俺の家は山のふもとにある。双方の家ともに一番近くのコンビニに行くのに車で30分もかかる寂れたところだ

泊まりに行く前日にAの家の場所がわからないので山の地図をもってAに家がどの辺にあるか教えてもらった。地図上で見れば俺の家とはかなり近かった。がAの家まで行くには
山の周りにある道路に沿ってぐるりと遠回りしなければならない。その距離10キロ

真夏の暑い中10キロも走るのか…と少しげんなりしていた俺は地図の中を走る一本の道を見つけた。その道は俺の家から少しいったところから始まって山を一直線に登りAの家のすぐ近くで終わっていた

長さは5キロほど。この道を使わない手は無いだろう

俺「こっちの道のほうが近いやん」

A「あーでもこの道なぁ舗装もされてないし急やし人もぜんぜん通らんからやめたほうがイイで」

俺「通れるんやろ?」

A「うーん…まぁ通れるけど…まあええか。そっから来いや」

ということでその道で行くことになった

その晩家族に「こんな道ぜんぜんしらんかった。」とその道のことを話した。両親はそんな道あったんやねぇとかなんとか言っていたが、じいちゃんは一人眉間にしわを寄せ難しそうな顔をしている

どうやらこの道のことを知っているようだ

この道は正式な名前はわからないがこの辺ではヒトナシ坂というらしい。何か名前にいわくがありそうだったが、まぁどうでもいいことだ

さて翌日Aの家に行く日がやってきた。家を出ようとする俺にじいちゃんが真剣な顔で話しかけてきた

「ええか、B (おれの名前)。あの坂は夜になったら絶対通るな。絶対や。今じいちゃんと約束してくれ。」

となぜか本気で心配している。わかったわかったと一応言ったが気になるので理由をたずねた

すると「あの坂には昔っから化け物がおる。昼間はなんともないが夜になるとでてくる。だから絶対通るな。」なんだ年寄りの迷信かと思った

おれは幽霊なんて信じていなかったしましてやバケモノや妖怪なんてすべて迷信だと思っていた

心の中で少しじいちゃんをばかにしながら自転車を走らせるとヒトナシ坂が見えてきた。本当にどうしてこんなに近いのに今まで気づかなかったのだろう。坂は少し急になっており一直線。地面はむきだし。左右の道端にはとても背の高い草が生えていて横の景色がみえない

だがうっそうとしている感じは微塵も無く真夏の太陽の光を地面が反射していてとてもすがすがしい気持ちになった

しばらく自転車を走らせているとトンネルがあった。高さは2.3メートルほどで幅は車一台がギリギリ通れるくらい。とても短いトンネルで7・8メートルくらいしかない。すぐそこに向こう側がみえている。立ち止まらずにそのまま通った。中は暗く湿っていてひんやりした空気があり気持ちよかった

その後何事も無くAの家に着き遊び、寝た
翌日もAの部屋でずっとゲームをしたりして遊んでいて夕飯までご馳走になった。気づいたら8時になっていた

まずい今日は9時から塾だ。遅れれば親に怒られる。俺はいそいでAに別れを告げ自転車にまたがった

帰りはいくら坂でも10キロの道のりを行けば間に合わないかもしれない。だからヒトナシ坂を通ることにした

じいちゃんと約束したがしょうがない。バケモノもきっと迷信だろう。月明かりに照らされた夜道をブレーキなしで駆け下りていった。この調子なら塾に間に合いそうだ

そう思っていると昨日の昼間通過したせまいトンネルがぽっかりと口をあけていた。すこし怖かったが坂で加速していたし通り過ぎるのは一瞬だろう。いざはいったトンネルの中は真っ暗。頼りになるのは自転車のライトだけ

早く出たかったので一生懸命ペダルをこいだ

だがおかしい。なかなかでられない。昼間はすぐ出られたのに今は少なくとも30秒はトンネルの中を走っている

思えば今夜は満月で外の道は月光が反射して青白く光っている。だからこんなに短いトンネルならその青白い道がトンネル内から見えるはずだ。真っ暗と言うことはぜったいにない。一本道なので道も間違えるはずがない

おかしい。おかしい。おかしい。怖い。

そこまで考えたらいきなり自転車のチェーンが切れた

どうしようどうしようどうしよう!!
立ち止まりあせりまくる俺。まだ出口は見えない

すると闇の中何かがいた

浮いていて遠くから近づいてくる、体はしびれたように動かない

眼が闇に慣れソレの姿がはっきり見えた

白装束を着た女だった。ただし、かなり大きな。異様に長い手足。最初は宙にういているように見えたが四本足でトンネルの壁に張り付いている

そしてゆっくりゆっくりこちらにむかってきている。ずりっずりっと音を響かせながら

髪は地面まで垂れ下がり顔には異様にでかい目玉と口。それしかない。口からは何か液体が流れている。笑っている

恐怖でまったく働かない頭の中できっと口から出てるのは血なんだろうなぁとか俺はここで死ぬんかなとかくだらないことをずーっと考えていた

女がすぐそこまで来ている。一メートルほどのところにきたときはじめて変化があった。大声で笑い始めたのだ。それは絶叫に近い感じだった

ギャァァァァアアアアアハハハハァアアアァァァ!!!!!!みたいなかんじ。人の声じゃなかった

その瞬間俺ははじかれたように回れ右をしていまきた道をはしりはじめた。どういうわけか入り口はあった。もうすこし。もうすこしで出られる

ふりむくと女もすごい速さでトンネルの中をはってくる

追いつかれる紙一重でトンネルを出られた
でも振り返らずにひたすら坂を駆け上がった

それからの記憶はない。両親の話によるとAの家の前で気を失っていたらしい。目覚めたらめちゃくちゃじいちゃんにおこられた

あとで俺はじいちゃんにトンネルの中の出来事を話した。あれはなんなのか知りたかった

詳しいことはじいちゃんにもわからないらしい。だが昔からあの坂では人がいなくなっていたという。だから廃れたのだと

化け物がいるといったのは人が消えた際しらべてみるとその人の所持品の唐傘やわらじが落ちていたからだそうだ。だから化け物か何かに喰われたんだといううわさが広まったらしい。まぁ実際に化け物はいたのだが

そういうことが積み重なってその坂は「ヒトナシ坂」と呼ばれるようになった

ヒトナシ坂のトンネルは去年土砂崩れで封鎖されて通れなくなったらしい

あの化け物はまだトンネルの中にいるのだろうか

それともどこかへ消えたのか誰にもわからない

−終わり−

亀の甲より年の功
自分より長く生きている人はその分何かを知っている
皆さんも忠告、警告は守りましょう

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