●怖い噺 四


□ブレスレット
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私が大学生だった頃、毎日つるんで遊びまわっていた

グループの中に非常に霊感の強いYという男がいました

みんなで飲み会をしているときなどでも「オイあそこに女の霊がいるぜ。」
とか車で走っているときに「このトンネルの先に墓地があるぜ。かなり霊がよってきてる」などと「ネタじゃねーの!?」と思わせることを言うやつでした

特に霊感も無い私は興味半分でよくそいつに「体験談」や「今見えている霊」を聞いていました。そんなある日のことです

長い大学の夏休みも終わり久しぶりに顔を合わせたYが少し怪訝な顔をしながら私にこう聞くのです「N(私)お前、夏の間に水辺に行ってないか?」と
当時ブラックバス釣りにはまっていた私はキャンプをかねてS県のB湖に何度か行っておりその事を告げると「やっぱりな、お前持って帰ってきてるよ。溺死した女の霊。白いワンピース着てて長い髪が濡れてべったり張り付いてるから多分水辺で亡くなった方だと思ったんだけどな…」と私に事もなげに言うのです

驚きあわてた私は「マジで?うそ?どうにかしろよ!」と怖さもあってやや切れ気味にYに言いました

Yは落ち着いた様子で「大丈夫。そんなにきつい霊じゃないから。ただ他のを呼んだり するとやばいからなー」と言い私に「これ着けとけ」と水晶のブレスレットを渡しました。私は素直につけ「これで大丈夫なんだろうな?」と聞くと「まあ、2〜3日だろうな」と答えました

その日から大学へ行くたびに「どうだ?まだいるか?」とYに聞くこと5日目「ああ、いなくなってるわ。」とこともなげに答えるYに対して大喜びの私

「お祝い、お祝い」と私のおごりで飲みに行きました。その席でYは私に「一度霊が憑くと癖になることがあるんだぜ。」などと私を脅すので私はYにお願いして水晶のブレスをお守りとして譲り受けました

そのことがあってから4年後Yは投身自殺をして亡くなりました

現場、自宅ともに遺書のたぐいは何も無く家族、同僚ともにYが思いつめていた様子も無く理由は全くわからないそうでした「お守りが形見になったな。」と思いながら大学時代のことを考えながら家路につきました

そして6年後。すっかりYのことや霊が取り付いたことも忘れていた私は…同僚、後輩の強い誘いもあって10年ぶりにブラックバス釣りに行く事になりました。行き先はS県B湖

久々とはいえ結構大物が釣れ後輩が「Nさん記念写真!!」と大物を自慢げに持つ私を使い捨てカメラで撮影しました。久しぶりの釣りで大物を手にした私はご機嫌で家に帰り妻にあれこれ話した後激しい疲労感からか落ちるように眠りに就きました

次の朝目を覚ました私は「何か変な夢をみたなあ。」という記憶と抜けきらない疲労感を覚えたまま職場へと向かいました。するとB湖で私の写真をとった後輩が血相を変え近づいてくるのです

「Nさん、昨日の写真を現像したんですけど、やばいんですよ!」
「何がやばいんだよ? 見せてみろよ」と私が手を出すと後輩は震える手で写真の束を渡したのです。やや陽射しがきつかったので逆光でうまく撮れていない写真が結構ありました。ですが問題の一枚を見た瞬間私はあまりの恐ろしさに震えていたと思います

ボートの上で座って魚を右手で持ち、ボートのふちを握っている私の左手、その手首が湖から伸びた青白い手に握られているのです

更に2枚目には青白い手と濡れた髪が張り付く頭が写っていたのです

私はその瞬間、大学時代の事件を思い出して「水晶のブレスを…」と考えたときに今朝の変な夢を思い出しました

夢の中で男が「また近づいただろう。また近づいただろう。」と繰り返していてだんだん遠ざかっていく夢だったのです

その男はYだったのです
なんともいえない寒気を感じた私は早退し、家で机の引き出しから水晶のブレスを取り出し腕につけたのです

恐怖を感じながら、すごすうちに妻が仕事から戻ってきました。どうやら体調が悪いらしく「頭が重いし、寒気がする」と言い早々に床に就きました

何とか寝ようと思い強めの酒をガブガブ飲んで酔っ払い、ベッドでうとうとして、また夢を見ていました「お前じゃない。お前じゃない。」Yが言っているのです

ふと目を覚まして「お前じゃないってどういうことだ」と考えていると妻が恐ろしい声でうなり始めたのです

明らかに何かにおびえている様子だったので「オイ起きろよ!オイ起きろってば!!」と必死で妻を起こしました

目を覚ました妻が言ったことは私を恐怖で凍らせました「全身びしょ濡れの女が私を引っ張るのよ!いくらもがいても放さなくて!」
そう言いながら怯えきっているのです

その女性の霊は私にとり憑いてその後、妻に憑いていたのです。私はあわてて水晶のブレスを妻の腕につけかえました

その瞬間なんと水晶のブレスがはじけ飛んだのです

妻と二人で怯えつつも水晶を拾い集めました。水晶のブレスはワイヤーが切れてその場に落ちたとかではなく約3m四方に飛び散っていたのです

怯えた妻を抱きかかえながら二人で震えていたのですがそのうち私はうとうとしていました。そしてまた夢を見ました

夢の中でYは「身代わりだよ。身代わりだよ。」と繰り返していました

水晶のブレスが妻の代わりに霊の怨念?を受けたのでしょうか。

その後水晶を宝石屋に持って行きブレスにしてもらいました。今でも私の左手首に常についています

私は2度と水辺に近づかないことを誓いました

−終わり−

もしYからお守りとして水晶のブレスレットを譲り受けなかったら…Yは死ななかったかも…なんて考えているのは僕だけですかね

Yからお守りを離した事で…

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