●怖い噺 五
□どこまでもついてくる
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これは数年前に友人Aから聞いた話です
その当時Aは高校2年生そしてそれは夏休みの出来事だった
夜十時頃にAの携帯が突然鳴った。Aの近所に住む中学校からの友人Bからだ
Aはこんな夜中に何だろうと思い電話を取ってみると「今から川原で花火やりに行かへん?」Bは普段から何かとAを誘ってちょくちょく遊んでいる仲だったためいつものノリでその誘いに乗って十時半にいつもの川原で落ち合うことにした
Aの住んでいる町はコンビニも一軒しか無いほどの田舎だ。落ち合う場所となっている川原も山道を少し進んだ奥にある地元の人間しか知らないような場所だった
そしてしばらくするとAは川原に着いた。すでにBは花火を開け待っていた
Bの持ってきた花火は多くなくすぐに使い切ってしまった。もうやることも無くなったがまだ帰る気の無さそうなBは「せっかく川に来たんやし、泳ぐか。」と言ってトランクス姿になって川に飛び込んだ
Bは初めから泳ぐつもりだったらしくバスタオルを二枚用意してきていた。地元の人間にとっては人っ気の無い川原で泳ぐときは見られる事も無いので水着など要らずタオル一枚あれば十分だそうだ。Aも夜に川で泳ぐのは初めてで調子に乗って泳ぎ出した
川の中は昼間と違って真っ暗でまるで墨の中を泳いでいるような感じだった。そのためAは早々に川から上がろうとした
その時…
突然Aの足が何かに引っ張られた。AはBの仕業だと思った。しかしもがきながらも川原を見てみるとBがすでに川から上がり立っているではないか
じゃあ足を引っ張っているのは…
一瞬背筋がゾクっとし月明かりによってかろうじて見える足回りを確認した…何もいない…そして引っ張られている感じは収まった
Aはすぐさま川原に上がりBにすぐにここを去ろうと告げようとした。しかしAは自分の目を疑った。Bの顔の後ろに鬼の形相をした顔が浮かんで見えた
「早く逃げろ!!」Aは突然の事にあっけにとられているBの手を引っ張りながらその場所を去った。逃げる最中にBに簡単にそのことを告げた
するとBがもうすぐ山道を抜けるというところで突然叫び出した「おいっなんだあれ?」
A達が走っていく方向に黒い塊が動いていた
大きさは大体1メートル弱で人間とも動物とも言えないような物体があった。そしてその物体はナメクジのように這うようにして動きA達の行く手を阻むような感じだった
Bは驚き来た道を戻っていった
そしてAもそれに続こうと思ったが出来なかった。Bが走っていた道を見てみると木の間に無数に伸びる手が手招きをしていた
その光景は異様で月明かりが無く前方の黒い物体の姿は見えないのに無数に広がる手だけは発光体の様にうっすら見ることが出来た
AはすぐさまBを呼び戻そうとしたものの、Bには手が見えていないらしくそのまま暗闇に消えていった
Aは迷った後に黒い物体の方に走っていった
眼をつぶり、時々半眼を開けながら黒い物体にぶつからないようにその場を走り抜けた
山のふもとまで出ることができ少し安心して後ろを振り返った
すると先ほどの物体が追いかけてきているではないか。ナメクジなんて動きでは無いまるで地面を滑るようにしてAに迫っていた
山のふもとまで出たおかげで月明かりがその物体をかすかに照らし出した。しかしそれでもその物体は見えない。周りの草や木なんかはそれなりに見えるのに関わらずその物体だけはどうしても見えなかった
まるで暗闇が地面を這っているように見えた「うわあぁぁぁぁ!!」Aは一心不乱に駆け出した
五分ほどしたであろうか、Aは近所の小学校まで逃げることができた。Aは逃げるときにとっさに掴んだ自分のバックからTシャツを出し身に着けた
しかしさすがに深夜の小学校にトランクスとTシャツ姿でいるとこを見つかったら問答無用に捕まると思いAはその後は見つからないように帰路に着いた
途中後ろから何かに追いかけられているような気はしたもののあえて振り返らず小走りで十分ほどで家に着いた
Aはそのままお風呂に入り逃げるように布団に入ると眠りに付いてしまった
そして翌日Aは眼を覚ますとすぐにBのことが気にかかり電話を入れた「なんだよ、こんな朝っぱらから…」Bは何事も無かったのかのように話している。Aは不思議ながらもあの後の経緯を尋ねた
「は?何言ってんの?昨日ずっと家にいたしまずお前に電話なんてかけてないし。」予想外の返答が帰ってきた。Aは必死に昨日の出来事を説明した
「どうせ夢の中のことだろ?お前寝ぼけすぎ。」Bの返答に苛立ったものの同時に安心感も出てきた。そしてそのまま電話を切り何気なく着信履歴を確かめていた。どうせ残って無いだろと思ったのもつかの間…
あった!
確かに昨日の夜十時にBから着信がある。Aはとっさにバックを確かめた。昨日のままだ。これは変だと思い昼になるとBの家に行った
Bはやはり何も無かったかの様な対応で、おばさんに聞いてもBはその時間にしっかり家に居たと言う…Bがその川原に確認に行こうと言い出したがAはとてもそんな気にはなれず遊ぶことも無く家へ帰った
そして夜が来てAがもう昨日の事は忘れようとテレビを見ていた頃である。突然Aの携帯が鳴った。Bからである。何か思い出したのかなと思いその電話を取ってみると「なんできのうは逃げちゃったの…」それは明らかにBの声では無かった
Aは一気に寒気に襲われそのまま急いで電話を切った
再びAの携帯が鳴る。予想通りBから…いや、謎の者からだ
Aはすぐに電源を切った。しかしそれでもしつこく着信音のみが鳴り響いたと言う…
その後は何も無いらしい…
しかしその川の下流では毎年数人は溺れて犠牲になっていることは紛れも無い事実である
その原因はただ川に溺れてしまっただけなのかどうかは分からないが…
−終わり−
僕の通っていた学校の近くの川でも水死体が発見された
第一発見者は学校に一番に登校中の生徒だった
そして生徒は先生に報告し、その死体を見た生徒はその子一人だった…そしてその事件の事は他の生徒には口外するなと言われた…その一人とは…