●怖い噺 八


□引き摺る音
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「うわ!」
連れのAが突然声を上げた
「な、なに?急に…」
オレは驚いて立ち止まった

バイトの帰り、大通りの交差点に差し掛かったところだった
「あれ、あそこに…見えないか?」
そう言って交差点の反対側の方を指差す

コイツまたか…と思った
Aは霊感が強いらしくて、何かとよく見える

しかし一緒にいるオレには見えないし、何も感じられない
この時も同じだった

「あっ!まずいまずい!あれはヤバいよ。早く行こ」

とまどうオレをしり目に、勝手に状況に見切りを付けAはどんどん先に進んで行く

早足で追い付くとオレは尋ねた

「なんなの?なにが見えたん」
「…車道の真ん中に人が倒れてたんだ。だけど車は止まらないでバンバン走ってソイツを通り抜けたりしてる。よく見たらソイツ上半身だけなんだ」
「それ、下半身が消えてるってこと?」
「うーん、千切れてるって感じだったな。それで、じーっと見てたら目が合って…」
「それ、ヤバいのか?」
「ヤバいヤバい。憑かれるかもしれない」
「マジでか〜、どーするの…」
「早く離れる方が良いかも。行こうか」
オレたちは早足で地下鉄の入り口へ向かった

駅前でご飯を食べたあとAが
自分の部屋に帰るのは怖いと言ったため、男二人で近くの居酒屋に飲みに行った

「…大丈夫だろ。もう大分時間たってるし」

いつまでも部屋に戻りたがらないAをオレは飲み屋で説得していた

明日も朝からバイトがあるからだ

「まあ、電車で動いたし。憑いてる感じはないし、大丈夫とは思うけど…」

そうやってグズグズ言っているAに、店の勘定の金を渡し、逃げるように帰った
オレが自分の部屋に戻ったのは23時を過ぎていた
疲れ切っていたので風呂へも入らず真っ直ぐ布団へ…

と、その時、電話が鳴った
ナンバーを見るとAだった
「もしもし」
「ああ俺。あのなやっぱり部屋の周りがイヤ〜な感じでマジ怖いんだけど…」
「ぁあ?(怒)」
「どうしたら良いと思う?」
「知るか!!」
叩きつけるように電話を切った

しばらくするとまた電話が鳴ったが放っておくと10コールぐらいで切れた

ようやく寝入ったところで
今度は携帯にかかってきた
無視しようか迷ったが、一応出た
「はい」
「これから、そっちへ行く…」
いきなり切れた

履歴を見るとやっぱりAだった

時刻は24時過ぎ、電車はもうない
あいつは原チャリしか持っていないのに、この寒い中本当に来るのか?

眠くてしょうがなかったので、どうでもよくなって寝直した
それでも気になっていたのか、その物音がした時にはうっすらと目が覚めた

自分の部屋のすぐ横にある階段を上る音

ああ、あいつマジで来やがった
そう思って時計を見た
4:30…
何考えてるんだ…心の底からうんざりして布団を出た

Aはまだ階段を上がっている
2階のオレの部屋までゆっくり、ゆっくり

原チャリで転んで怪我でもしたのか?
少し心配になったオレは部屋のドアを開け右手にある階段の方を見た

階段は部屋の前の通路と直角になっていてドアからは見えない

ズッ…ぺタン…ズズッ…

ゆっくりとした音が階段の方から聞こえてくる

階段を上がる靴の音ではない
何か重いものを引きずるような音…?
急に悪寒がした
階段を上がっているのは本当にAなのか?

ぺタン…ズズッ…ズッ…

音が近づいてくる

そうか…腕だけで体を引っ張り上げるとこんな音が…

オレは部屋の中に入るのも忘れて階段を登りきった角の所を見つめていた

ズズッ…ズッ…ぺタン

通路の床の上
ゆっくりとした動作で白い手が現れるのが見えた

オレは勢いよくドアを閉め震える手でカギをかけると布団を頭からかぶった

耳を澄ます

…ズズッ

音は部屋の前で止まったようだった

オレはお経を知らなかったので布団の中で、来るなっ来るなとだけ念じていた

どれくらいの時間そうしていたのか

やがてそっと開けた布団の隙間から外が白んでいるのが見えた

ドアの新聞受けがカタンと軽い音をさせた

新聞屋が来た!
オレは涙が出そうなくらい安堵した
朝刊だけでも取っていてよかった
本当にそう思った

ズル…ドサッ

玄関の方で重い肉が落ちるような音がした…え?新聞じゃない…

入って来た!入って来た!
入って来やがった!オレは気が狂いそうになった

なんであんな細い隙間から入ってくるんだ!と憤ってみたがどうしようもない
布団をかぶり直しブルブルと震えるしかなかった

ズ…ズル…

何かが床の上を這っている

Aの馬鹿野郎!泣きながら罵ってみた

ズズ…ズル…

音が近づいてくる

Aゴメン!
オレがあの時帰らなかったら…

その先のことは考えず、ひたすらAに謝ってみた

布団の端がめくれ上がるのがわかった

生臭い臭い

そして何ものかの気配が目の前に…

ダメだ!

今、目開いたらダメだ!
そう言い聞かせながらも、つい目を開けてしまった…

そこに見たのは…

−終わり−

交差点では見える人には見えるらしいですからね…

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