●怖い噺 八


□酸素ボンベの残量
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沖縄でスキューバダイビングのインストラクターをしているYと言う男性がいます

Yさんはその日も10人の生徒を連れて海に潜っていました

生徒たちはダイビングを楽しんでおり海も綺麗で
いつもと何ら変わったところはありませんでした

水中では手でサインを作って手話のように会話をします
ボンベの空気にまだ余裕があるならば人差し指と親指で丸を作った『OK』の形
もう空気が少なくなっているなら顔の前辺りで掌を下に向けた形

空気はどうかというYさんのサインに生徒の半分くらいは空気が少ないと言うサインを出しました

(じゃあそろそろ一度上がろう)

Yさんはそう思って生徒を見渡しました

すると少し離れたところにいる一人の女性に自然と目が行きました
赤いウエットスーツを身に付け
長い髪がゆらゆらと水中に広がっています

女性は『OK』のサインを出しています

(そういえばあの人、さっきからずっと『OK』だな。もう俺も空気残量が少なくなり始めたのに…)

自分の吐く息がゴポゴポと泡になるのを見ながらYさんはハッと気がつきました
女性のレギュレーターからはまったく気泡が出ていません

女性はまだ『OK』のサインを出し続けています

Yさんは生徒を連れて急いで海から上がりました
船の上で人数を数えたところ丁度10人
もちろん海に入る前と人数に変動はありません

船の上にいる生徒の中に赤いスーツで髪の長い女性はいませんでした

その夜Yさんは宿所でインストラクター仲間にこの話をしました

すると海の中ではなく船の上でですが同じような格好の女の人を目撃したという仲間が数人いたのです

「見間違いじゃなかったんだ、あれ…」

「幽霊だったら、ダイビング中に死んだ人とか?」

そんな風に怖い怖いとしばらく盛り上がっていると

一人が不思議そうに言いました

「何でずっと『OK』出し続けてたんだろうね?」

みんな顔を見合わせて考え込みます

すると一人の男性がぽつりと言いました

「『OK』じゃなくて『ゼロ』だったんじゃないか?」

「え?」

「もうボンベに空気は無いって、残量はゼロだって、始めから言ってたんじゃないか?」

−終わり−

OKでなく0…

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