●怖い噺 九
□呪い
1ページ/1ページ
昔、まだ私が小学校5,6年生だった頃のことです
当時誰もが知っている「こっくりさん」が流行っていました
オカルト好きだった私や友人達の間でも当然話題になり是非やってみたかったのですが何故か学校で「こっくりさんは絶対にやってはいけない」という規則があると言われ禁止されていました
実際にはそんな規則はある訳もなく恐らく「良くない遊び」としてどこかの親が子供に言い聞かせたか、または誰かがこっくりさんに信憑性を持たせるためそんな噂を流したかだと思います
しかし禁止されると余計にやりたくなるものである日私を含む4人でこっくりさんをやってみることにしました
実施する時間はやはり夜が良かったのですが、子供だけでそんな遅くに集まることはできません。ところが丁度近所で夜祭が開かれておりそこに行くという名目で4人集まろうということになり場所は学校の教室にしました
当日なんとか4人で学校に忍び込み教室に集まります。メンバーはA君、B君、C君、私です。A君はクラスの中でもリーダー的存在でこのオカルト好き集団の中でも当然リーダーでした
教室内でA君が用意してきた文字や数字、鳥居などが書かれた用紙を広げます。そして鳥居の場所に十円玉を置きそれを皆の指で押さえます
A君が何か呪文のようなものを唱え準備完了です
A君「よし、誰かこっくりさんに聞きたいことないか?」
私は特に聞きたいこともなかったのですがB君C君が色々と質問します
と言っても小学生の他愛のない質問で「○○の好きな子は?」「俺、将来何になっている?」「××先生ってカツラだよな?」などなど
質問の度に十円玉が文字の上を動き答えを示します
私は指に力を入れてなかったのですが、誰かが勝手に動かしているのだろうと思っていました。他の3人もそう思っていたと思います
ほぼ予想通りの回答が得られ恐怖も感じずにわいわいとやっていましたがこれで最後と言ったA君の質問で雰囲気が変わりました
A君「こっくりさん、最後の質問です。この中で最初に死ぬのは誰ですか?」
私達他の3人は唖然とします
何聞いてんだ、やめろと言おうとしましたがすぐに十円玉が動き出します
私はこの時ばかりは指に力を込め十円玉を止めようとしました。しかし止まりません。十円玉は鳥居から抜け出し最初の文字に向かいます
他のB君C君も止めようとした様子でしたがそれでも動きは止まりません。そしてこっくりさんが最初の文字を示しました
「は」
皆凍りつきます。それはB君の名前の最初の文字でした。B君の顔を見ると見る見る青ざめていきます。言われもない恐怖を感じA君も含み皆一斉に指を離しました
B君は半泣き状態です。何故かA君を攻める気力も失せてしまいその日はそれで終わりにして各自無言のまま帰宅していきました
2日後B君が亡くなりました
呪いによる不可解な死ではなく、交通事故でした。しかし当然こっくりさんのことが頭に浮かびます。A君、C君も同じように感じていたと思いますがお互いにそのことには一切触れずこっくりさんを行ったこと自体暗黙の内になかった事として忘れることにしました
それから約8年後のことです
A君は小学校卒業と共に引越し、C君は私とは違う中学へ行ったため3人は小学校以降会うことはありませんでしたがある日突然A君から電話がありました
A君「Cと3人で会わないか?」
昔のこともありましたが、どうしても会いたいというので1人暮らしをしているというA君の家で3人で会うことになりました
約束の時間に待ち合わせの場所に行くとC君が既に来ていました
約8年ぶりでしたがC君は余り変わっていませんでした。そして遅れること5分A君がやってきました。彼は変わっていました。昔は活発で運動神経もよくリーダー的存在だったA君
しかしその面影はなく、すっかり痩せ細り生気のない顔をしていました
再会の挨拶もそこそこに、A君はすぐに家に行こうと言うので3人でA君の家に向かいました
A君の住んでいるアパートはお世辞にも綺麗とは言えないようなアパートでした。何となく嫌な感じのする建物でしたがA君の部屋に入るとその感じは更に増しました
部屋の壁のあちこちに何やら難しい文字のお札や、写経を写した紙が貼ってあり変な形の水晶や数珠、お香の道具のようなものが置いてあります
一体何事かとA君に聞いても何も答えず取りあえずそこのテーブルの前に座ってくれと言われました。テーブルの上には一枚の紙が置かれていました
紙には文字や数字や鳥居の絵…それは忘れもしないこっくりさんの紙でした。そしてA君がこう言いました
A君「これはあの時使った紙だ。これからもう一度こっくりさんをやるぞ。」
私達にはA君の意図がまったく理解できませんでした
2人で理由を問い詰めるとA君はやっと説明をしてくれました
8年間彼を苦しめ続けている話を…
A君「小学校の頃こっくりさんやったよな?あの時最後に俺変な質問したろ?最初に死ぬのは誰だって。そうしたら「は」ってBの名前の最初の文字指したろ。あれな…本当は名前じゃないんだ…俺が口で言った質問はフェイクみたいなもので心の中で違う質問をしてたんだ『こっくりさん、Bを呪い殺せますか?』って。その返事だったんだよ…あれは“はい”っていう返事だったんだ…」
正式なこっくりさんの紙には「はい」「いいえ」のような言葉も書いておくらしいですが私達のその紙には書いていませんでした
それというのも、A君が元からその質問をする予定だったので答えが「はい」「いいえ」では誤魔化すことができないから書かないでおいたそうです
昔、A君はリーダー的存在でしたが、B君も負けず劣らず頭も良く運動神経もよく何より格好もよかったのでクラスの人気者でした
A君は子供ながらに彼を邪魔に思っておりある時A君が好きだったクラスの女の子がB君を好きだということを知ってB君を憎むようになりこっくりさんをやって脅かしてやろうと思ったそうです
話をしているうちにA君は泣き始めました
しかしB君が死んだのは事故です。私はオカルト好きではあったものの、人を殺せるような呪いなんてある訳がないと思っていました
私「あれは偶然が重なった事故なんだよ。Bが死んだのはAの責任じゃないって。」
C君「そうそう。第一そんな呪いなんてあったらこの世の中もっと大変なことになってるぜ?」
A君は首を強く振り泣きながら話を続けました
A君「違う。あるんだ…呪いはあるんだよ。霊も居るんだよ…実際にそこに居るんだよ…ずっと居るんだよ。何やっても離れていかないんだよ…」
そこと言っても部屋には私達3人しか居ません
しかし話を聞いているうちに段々と部屋の空気が重くなり肌寒いような感じがしてきました
A君「人を呪わば穴2つって言うだろ?Bを呪い殺してしまった俺が死ぬまでこいつはずっと離れないんだ…途中で止めたからだ…あれは途中で止めちゃいけないんだ…そんなこと知っていたはずなのに怖かったから…ほんとに怖かったから止めてしまったんだよ。」
A君は叫ぶように言いました
更にA君は続けます
A君「何でもやったよ…日本中回ってお払いしたり、お札買ったりお経読んだり。でもダメなんだ。当たり前だよな。だってもうBを死なせてしまったから…もう自分が死ぬまで終わらないんだ。」
そんなことないただの思い込みだと励ましてももう聞く耳も持たないようでした。そしてA君は何故今日私達を呼んだのかを話してくれました
A君「今日呼んだのは、さっき言った通りもう一度こっくりさんをやるためだ。だってあの時止めたままで終わってるからな。ちゃんと帰さないと。」
事態が飲み込めました。それならこっくりさんをちゃんと帰せばA君は助かるのでは?と思いC君と私は再びこっくりさんに参加することにしました
あの時の続きということで「は」の位置に十円玉を置き指を起きます。A君がまた呪文を唱えそして言います
A君「こっくりさん、どうぞおかえりください。」
しかし十円玉は動きません。もう一度言います
A君「こっくりさん、どうぞおかえりください。」
動きません。私達も声を揃えて言います
私・C君「こっくりさん、お願いです。どうぞおかえりください。」
A君「こっくりさん、ごめんなさい。お願いです。どうぞおかえりください。」
すると…十円玉がゆっくりと動きだしました
…鳥居ではなく文字の方へ
「お」
そのまま次の文字へ
「い」
次の文字へ
「で」
そして鳥居に戻りました
A君「おいで…?」
意味がわかりませんでしたが、C君が早く終わりにするように言いました
A君「あぁ、ええと…こっくりさん、ありがとうございました。」
これでこっくりさんは終了です
C君「A、気分はどうだ?」
A君「うん…なんか楽になった気がするかな…」
私「まだ何か見えるか?まだ居るのか?」
A君「居ない…さっきまで居たとこには居ない。何も感じないしもう平気なのかな…」
C君と私はホッとしました
A君もやっとぎこちないですが笑顔を見せてくれました。その後3人で外で食事をし、また近いうちに会おうと言って解散しました
しかしもう会うことはできませんでした…その次の日のニュースでA君が飛び降り自殺をしたことを知りました
前日にA君と会っていたということで警察が私のところに来ました
現場の状況と遺書らしきメモ書きから自殺と断定したそうですがその内容がどうも分からないということでした
そこには一言だけこう書かれていました…
「Bが呼んでるから…いってくる」
B君が事故で死に、それによりA君が長い間苦しみ最後に死んでいったというのも事実です
これは呪いによるものですと言っても私は否定できません
−終わり−
本当に人を呪わば穴二つ…それなりの覚悟と対価…等価交換は必要ですからね
…皆さんも人を呪うのならばそれなりの覚悟を…