●怖い噺 九


□鏡の無いトイレ
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学生の頃の話です

私は埼玉県のとある4年生の大学に通っていた男です

大学は穏やかな校風で、部活に勉強にと、キャンパスライフを楽しんでいました

『2棟のトイレに鏡が全くない理由を知っているかい?』

そんな質問を先輩からされたのは、2回生の校内合宿の時でした

その大学の学部棟は6棟あり、確かにその2棟だけトイレに鏡がないのです

先輩によると鏡がない理由はもちろん
『鏡越しに見えてしまう人が続出したから』とのことでした

ほかにも
『2棟の壁を上半身だけの女性がよじ登っていた』
など、なぜか2棟だけそんな噂が数多くあるのです

男女入り乱れての合宿での肝試しなんて、男にとっては理想的な環境です

さっそく、深夜の2棟を探検することになりました

ミッションは、4棟の各階のトイレに入り、女の子に借りた手鏡で周囲を見回す
というのに決まりました

スタートは私のグループから

深夜の校内はもちろん気持ち悪くはありましたが、人数が4人もいたこともあり、恐れていたほどではありませんでした

下の階から順調にミッションをこなしていき、最後4回のトイレでのミッションを終えてトイレを出て
あとは帰るだけだと安堵した時でした


階段を降りていく途中で妙なことが気になりました

『あれ?足音的にこんなに大人数だったかな?』

直後、最悪の事態が頭をよぎりました

無理矢理に心を落ち着かせ、前を向いたままグループメンバーに自然な振りで声を掛けながら降りていきます

全員に声をかけ終わった後、みんながいたことに安堵して振り返りかけると

明らかにもう一人の髪の長い人影が最後尾を歩いていたメンバーのすぐ後ろに

私のすぐ横にいた女子も気が付いたようでした

『逃げろ!!!』

叫んだ後はよく覚えていません

最後尾のメンバーの手を引き階段を駆け下りたのだと思います

当然
以降のグループは中止

私と一緒に見た女の子は、どうしてもその夜を学校で過ごすことができず
深夜のタクシーで帰宅しました

直接的に気持ち悪い話ではないのですが、その時は本当に怖かったため投稿しました

ちなみに今は2棟は取り壊され
新しい建物に変わっています

恐ろしかったですが
幽霊も楽しげな雰囲気に誘われてきてしまったのかなとも後で感じたその出来事は、同時に少し寂しくもある思い出です

−終わり−

楽しみたいのは、生きている者だけではありません

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