●怖い噺 九
□案山子の神様
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子供の頃の体験
田舎住まいなので、通学するときにはいつも田んぼの脇道を通っていた
その日も家に帰る為いつものように田んぼの脇道をカエルの鳴声を聞きながら歩いていた
すると田んぼの中にピンク色の割烹着のような服を着た人が立っているのに気が付く
「ああ、田植えか何かしているんだな」
そう思って良く見てみると何か動きがおかしい
片足で腰をクネクネさせながら、白いビニールの紐のようなものを新体操をしているかのように体の回りでグルグルさせている
何と言うかフラフープをしているような、そんな動き
変な汗が俺の体中からフツフツと湧き出てきた
しかもソレは片足でケンケンしながら、少しずつコチラに近付いて来ている
ゲコゲコと蛙の鳴声が響く夕焼けの田んぼの中で俺は何故か動けずにソレを見ていた
腰をクネクネさせてピョコピョコとコチラにやって来るソレに顔は無かった
と言うか見えなかった
写真でブレた時みたいな
激しく顔を振っている
そんな感じ
体は普通に見えるのに、まるで顔の部分だけぼやけていると言うか…
俺は目がかすれたのかな?と思い何度も目を擦ってみたがソレの顔は相変わらず見えない
しかも、もう目の前まで来ている
「ああ、こらもう俺の人生終わったな」
そう思ったと同時に涙が物凄い勢いで流れた
目が痛くて開けていられない程に
俺はその痛みと恐怖で気絶してしまったらしく
次に目を開けた時には自宅の布団の中でした
そこには俺を囲むように親父と祖父、祖母と近所の坊さんが居て、なにやら念仏のようなものを声を揃えて唱えている
なんだかその状況が可笑しくて「ブフッ!」と吹き出すと、祖母がグッっと俺の体を押さえ付けて「ジッとしてろ!」と低い声で言った
結局それは俺が目覚めてから1時間程続いたのかな
その後祖母に聞いた話しでは俺が出会ったアレは『案山子の神様』とかなんだけど
その案山子は寂しかったのか何か知らないが、俺を自分の仲間にしようとしたらしい
「連れてかれたら一生泥の中で暮さなきゃいけねえんだぞ」
と、祖母は最後に言いました
おかげで今でも田んぼに案山子がポツンと立っていると恐くてしょうがないです
その後親父に電話で色々聞いてみました
気絶した俺を見つけたのは近所の人だった
田んぼの脇道に人(俺)が倒れていたので「まさか…」と近付くと
涙を流したまま倒れている俺
その目の前に、俺を見下ろすような形で立っている案山子
「やっぱり」と思い俺の祖父や坊さんに知らせたそうです
昔も似たような事件が何回かあったみたいです
殆どの人は助かっているそうです
しかし発見された時に目の前の案山子を見つめたままケラケラと笑い続け
案山子の側を離れようとしない者も何人かいたそうです
さらに嫌な話も聞いてしまいました
なんでも、昔昔の食糧難の時にその村にいる役立たずの人を、食いぶちを減らす為に殺してしまうそうです
しかし、ただ殺すだけではと
田んぼを荒らす獣除けに、逃げられないように足を片方切断して白装束を着せ田んぼに立て掛けた十字型の木に縛り付けてしまう
片足両手等を縛られて殆ど身動き出来ないその人はそこから抜け出そうと体をくねくねさせる
それを遠くで見る村人は「あれならあと2、3日は余裕で持つな」と話すそうです
縛られた人は大体餓死か日射病で死ぬが、中には熊や野犬などに食われてしまう人もいるそうです
そんな非道な事をやってれば祟りや何だで、その村に色々起ったので
生きたまま案山子にされた人を『神様』と祭り上げたそうだ
−終わり−
内容的にはクネクネと同じ分類ですね…