●怖い噺 壱


□コンセントの髪の毛
1ページ/1ページ


最初に気付いたのは散らかった部屋を、僕の彼女が片付けてくれた時だった

といってもテレビで出てくるほどのゴミ屋敷ってわけでもなくて、ちゃんと足の踏み場はあるし、掃除だってほどほどにはしているつもりだ

けど、やっぱり男の一人暮らしは散らかってしまうもので

その日も同じように彼女が来てくれて、部屋の掃除を始めてくれた
僕も彼女と反対側の掃除を始めて、本やら小物を要る物どうかを判断したりして、だんだん部屋が片付いてきた時
彼女がそれに気付いた
「ねぇ……」

彼女が指差した雑誌やらビデオテープやらで隠れていたコンセントの中から、かなり長い髪の毛が一本、垂れ下がっていた
「これ誰の髪の毛よ」

僕の友達は男友達ばかりだって事を知ってる彼女は、ぼくを疑いの目で見た
僕の髪は短いし、でも彼女の髪もこれほど長くない
けど僕にだって彼女以外の女性を部屋に入れた記憶はなかった

あまりにも彼女が僕を疑いの目で見るので、僕はコンセントから出ている髪の毛を掴むとスルスルとそれを引き出した

プツン

嫌な感触に僕は思わずその手を離した。まるで、本当に人の頭皮から髪の毛を抜いたような、リアルな感触
思わず僕はコンセントの穴を覗き込んだけれど、その先は真っ暗闇で、何一つ見えなかった

翌日の朝、僕は青ざめていた
目覚めたときには電車のギリギリの時間、僕は飛び起きると寝ぼけ眼で、大学の準備をしようと放り出してあったカバンを取り上げた。その時、ちょうど目線に入ってきたコンセント

真っ暗な二つの穴の一つから長い髪の毛がまた、だらりと力なさげに垂れていた、昨日引き抜いたはずの髪の毛
長さから見ても同じ人物のようだった
まるで何かの触手のようにコンセントから伸びているそれがとても気持ち悪くなり、僕はそれを急いで引き抜いた
プツリ
またあのリアルな感触
「気色悪い……」
僕はそう呟くと、その穴に使っていなかったラジカセのコンセントを押し入れ、引き抜いた髪の毛を窓から捨てると、荷物を持って部屋を後にした

それからラジカセが大きかった事もあってか、僕はまたコンセントの事など存在すら忘れて普通の日々を過ごしていた

あれから一ヶ月は経った時だったろうか
ついに、それは僕に降りかかった

<ガ・・・・・ガガ・・・・ガガ・・・ガガガ・・・>

夜中に突然鳴り出した音に、僕の安眠はぷっつりと閉じられた
「あ・・・・う・・?」
苦しそうな声を上げて電気をつけると、放置していたラジカセからビリビリと何か奇妙な音が流れていた
山積みになった漫画の更に裏にあったはずのラジカセが見える、変に思ってよく見ると、積んであったはずの本は崩れて、周りにころがっている

まさか、ラジカセの音で崩れるはずは、とも思ったが…それしか浮かばない
<ガガ・・ガガガ・・・>
ラジカセはまだ壊れたように妙な音を発していて、僕はその電源ボタンに手をかけ――そして気付いた
電源は…すでに切れていた
オフになっているのに、やっぱり壊れてしまったのだろうか

僕はラジカセを持ち上げようと、両手で両端を掴み力を込めた。ぬちゃ…といやな感触がして、僕はそのまま…目を見開いた

ラジカセの裏から伸びたコンセント、そこに人間一人分ほどの髪の毛が絡みついていたんだ
コンセントのコードにつるのように絡まって、ギチギチに
目で追うと、それはコンセントの穴の片方から…伸びているようだった…しかも、僕は驚いてラジカセを力いっぱい引いてしまったんだ

ぶ ち ぶ ち ぷ ち ぶ ち

ラジカセに絡まっていた何十万本まの髪の毛が頭皮から引き抜かれる感触がした。
同時に、コンセントの向こうから絶えられないほど絶叫が響いた
コンセントの穴から髪の毛が一斉に抜け落ちて、ドロリとした真っ赤な血が、穴から噴出した時…僕は悲鳴を上げ、気を失った

血塗れの部屋。髪が散乱する部屋。僕は部屋を綺麗に掃除すると、荷物をまとめて部屋を出た
あのコンセントからは、また髪の毛が一本触手のように垂れていた

−終わり−

髪の毛を引き抜かれるのは痛いです
髪は人生の長い友達
皆さんは髪の毛を大切にしましょう
そして、幽霊の皆さんは引き抜かれない所に髪の毛を

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ