●怖い噺 壱
□一生追いかけて…
1ページ/1ページ
ある晩、私はとても奇妙な夢を見ました
その住宅街には、いくつか公園があって、私の住んでいた家の近くにも1つ公園がありました
そしてその公園の横には短いですがとても急な坂があったんです
夢の中の私は、その急な坂をあろうことか自転車で上っていました。ふいに後ろから歌声らしきものが聴こえてきました
黄色い傘が…………
幼い男の子の声で歌っているんです
夢の中の私は、その時、その坂にまつわるある怪談を思い出しました
それは、"その坂を赤い服を着て通ると、後ろから歌声が聴こえてくる。その時振り返ってしまうと、一生追いかけられる"
というものでした。とっさに私は自分の服を見、それがお気に入りの、”赤い”トレーナーであることに気づいたのです
私は慌て、残り少なくなった坂を一気に上りきりました。そして家に向かうべくそこから右折ししようとした時、私はとうとう好奇心に負け、左肩越しに後ろを振り返ってしまったのです。それも2度も
後ろには、白いTシャツに、黒の中ズボンの男の子。そして、手にはなわとび。そう、その男の子は、なわとびを跳びながらついてきていたのです
私は、もの凄い勢いで自転車をとばしながら、終いに3度目振り向いてそれを見、恐ろしくなって、家に飛び込むとガレージに自転車を突っ込み、停めてあった車の陰に身を潜めようとしたところで…目が覚めました
起きてからも心臓はバクバクいってるし、本当に目覚めの悪い夢でした。でも、それで終わってくれていたのならよかったのです
それから数日後、私はまた夢を見ました。今度の舞台は、私の家の中。私を除く家族全員が寝室として使っている、8畳の和室でした
私は、その部屋の隣の部屋に何か用があって和室の前を通りかかったんです。すると、誰もいないはずの和室の中から、声が聞こえてきたんです。何か、ぼそぼそと
私は、誰だろうと思って、半開きになっていたスライド式の扉を開け、中を覗き込みました。 ところが、誰もいません
おかしいな、と思いつつ顔を引っ込めようとした時、私の視界に妙なものが映りました
障子、その間に誰かいるみたいなんです。向こう側から障子に指を押し当てているのが透けて見えるんですよね
でも、そんな狭いところにヒトが入れるのか?と思ったとたん、障子が開いて、間から知らない男の子がするりと出てきたのです
その子は、私に向かっていきなり、「僕は狼少年だ」 と言うや否や、
すごい勢いで追いかけてきたんです
私は、びっくりして慌てて逃げました。床を滑りそうになりながらも走り、そのまま階段を下り……、かけているところで、またしても目が覚めました。 前と同じで、心臓の鼓動を早くさせて
そして、また数日後、私はまた夢を見ました。今度は、男の子は私の部屋にいました
ところが私は、その様子を今回に限って何故か、カメラを通しているかのような視覚で見ているのです。おかげでその夢では追いかけられることもなく、何となくよくわからないままに目が覚めました
少しばかり奇妙に思った私は、母に今までに見た2つも含め、この夢の話をしました。すると母は、「その男の子ってさ、結局……」と口を開きました。「あんたの部屋まで追いかけてきたんだよね」
私は、言葉を失って、その場に立ち尽くしてしまいました。 思い出したのです。夢の中とはいえ、あの坂にまつわる怪談を
"その坂を赤い服を着て通ると、後ろから歌声が聴こえてくる。その時振り返ってしまうと、一生追いかけられる" 一生追いかけられる…
私は、見てはならないものを見てしまったのでしょうか。 あれからあの男の子の夢は見ていません。でも、あの話が本当だとしたら…
私は、今では引っ越してマンションに住んでいますが、男の子は、今でも私の後を追ってきているのでしょうか…
−終わり−
ストーカーは立派な犯罪です
画面の前の皆さんはストーキングなんてしない様に