●怖い噺 壱


□裏返し
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この文章を読む前に、身近なところに時計があるかどうか確認してもらいたい

十分、二十分が命取りになりかねないので

先月、高校時代の友人がポックリ病で逝ってしまい、通夜の席で十数年ぶりに集まった同級生の、誰からともなく「そのうち皆で呑もうなんていってるうちに、もう3人も死んじまった。本気で来月あたり集まって呑もうよ」という話になった。

言い出しっぺのAという男が幹事になって話しは進行中だが、なかなか全員のスケジュール調整がつかない

今年の夏はくそ暑いし、9月に入ってからにしようかと、幹事のAと今昼飯をいっしょに食べながら話し合った。そのときビールなんか呑んだのが、間違いだった

Aが、ふと言わなくてもいいことをつい口に出し、おれは酔った勢いで、それに突っ込んだ。それは先月死んだ友人に先立つこと十年、学生時代に死んだBとCのカップルのことだった

十年前AはB(男)の家(一人暮らしのアパート)で、Cと三人で酒を呑んだ。直後、BCは交通事故で死亡。Bの酔っ払い運転による事故という惨事だった。Aはその事故の第一発見者でもある

おれは、2ちゃんねるのことをAに説明し、事故の第一発見者のスレッドに書き込めと、悪趣味な提案をしたのだ。すると、Aはたちまちにして顔面蒼白となり「冗談じゃない」と本気で怒り出した

おれは、いささか鼻白み「むきになんなよ」と言い返したが、Aの怒りは収まらず「じゃあ、あのときの話を聞かせてやるが、後悔するなよ」と言って、恐ろしい早口で話し出したのだ

Aのはなし
おれ(A)がBCと呑んでいたとき、D先輩がいきなりBのアパートを訪ねてきた。顔面真っ青で、突然「おまえ等、裏返しの話を知ってるか」と話し出した

そのときおれは、酒を買い足しにいこうとしたときだった。Dさんが止める様子もないので、缶酎ハイを買いに出て、十五分ばかり中座した。部屋に戻ると、Dさんは大分くつろいだ様子で、おれが買ってきた酎ハイを喉を鳴らして一気に呑んだ

「なんの話だったんですか?」「だから裏返しだよ」「裏返し?」「裏返しになって死んだ死体見たことあるか?」「・・・いいえ。なんですか、それ?」「靴下みたいに、一瞬にして裏返しになって死ぬんだよ」「まさか。なんで、そんなことになるんですか?」先輩は、くっくと喉を鳴らして笑った

「この話を聞いて、二時間以内に、他の人間にこの話をしないと、そういう目にあうんだ」「不幸の手紙ですか?」おれは本気にしたわけではないが、聞き返した。今なら「リング」ですか?と言うところか。「なんとでも言え。とにかく、おれはもう大丈夫だ。もさもさしてないで、おまえ等も話しにいった方がいいぞ」なにか白けた感じになったが、買い足してきた分の酎ハイを呑み干して、宴会はお開きになった

先輩はバイクで去り、BCはBのサニーに乗った。スタートした直後、サニーは電柱に衝突した

呑み過ぎたのかと思い、すぐに駆け寄ってみると、BCは血まみれになっていた。そんな大事故には見えなかったので、おれは少なからず驚いた

いや、もっと驚いたのは二人がマッパだったってことだ。カーセックスなんて言葉も浮かんだが、そうでないことはすぐに分った。二人は、完全に裏返しになっていたのだ。おれは大声で叫んだ

「裏返しだ!裏返しで死んでる!」すぐに人が集まってきて、現場を覗き込んで、おれと同じ言葉を繰り返した。だから、皆助かったのだろう

Aは逃げるように帰って言った。おれはこんな話むろん信じないが、一応このスレッドを立てて、予防しておく

肝心な部分を読んでいないとカウントできない。読んだ方。一応後何時間あるか、時計でご確認を…

−終わり−

靴下を裏返しにしたまま放置しておくと、せんたくしにくいと言われます

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