●怖い噺 壱


□茶色いモノ
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寝る前に、爺ちゃんから聞いた話をひとつ

まだ爺ちゃんが子供だった頃
友達連中と連れ立って川で遊んでいた時の話らしい

川と言っても村の中を流れているものでは無く
そこから更に上流へと登った山の中を流れる沢のような所だそうだ

季節は夏の頃
朝のうちから魚を採ったりして遊んでいると、一人が妙な物を見つけた

「おい、なんやこれ?」

と言う声に
なんだなんだと集まってみると
自分たちの背と同じくらいはあろうと言う、茶色で大きく長いものが浅い川底に転がっている

最初、朽木か丸太かと思ったが
表面が妙にぬめぬめしているし
何より触ってみるとぶよぶよと柔らかい

こりゃ何だ?
と思って枝切れを拾ってつついてみると
枝を通して感じる固めのゴムのような弾力
最初は気味悪がっていたが、段々面白くなってきたのか
程なくして皆遠慮がなくなり始め
そのうち誰かが、えい、と突き刺さんばかりに枝を押し当てた

するとその茶色くぶよぶよしたモノがぴくりと動いたと言う

「おい、これ動いたで。魚か?」

と、一人が笑いながら、ひときわ強く枝切れでぺしんと叩く

すると次の瞬間

「うわぁ!?」

いきなり茶色くぶよぶよしたモノがすごい勢いで起き上がった

そして手だか前足だかでその叩いた友達の腕を掴む

更に頭のようなものを彼に向けると
その先端が裂けるようにがばっと開いた

その様はまるで友達を捕まえ、大口を開けてひと呑みにしようとしている様だったと言う

唐突すぎる出来事に、ぽかんとしていた爺ちゃん達だが
はっと我に返ると手にしていた棒で茶色いモノを力任せに殴りつける
だが枝切れ程度では埒があかない

「おい、早く離れえ!」

捕まっている奴に怒鳴るが、相当強い力らしく引き離せないらしい、彼は目に涙を浮かべながら、ぶんぶんとかぶりを振るだけだったそうだ

そのうち、別の一人が腕ほどもある棒切れを拾ってきて爺ちゃんに渡すと、二人がかりでその茶色いモノに思い切り殴りかかった

それはもう、ぶち殺しても構わんと思うくらい力を込めたそうだ

それが利いたのかどうかは分からないが、何度かぶっていると、茶色いモノは諦めるように掴んでいた手だか前足だかを放し、また川底にばしゃんと横たわる

そして、呆然とする爺ちゃんたちを尻目に川上に向けてずるずると這うようにして登っていったそうだ

「立った高さが子供の上背くらいあってよお…ありゃ何だったんだろうなあ」

と爺ちゃんは、心底不思議そうな表情を浮かべながらこの話をしてくれた

−終わり−

一瞬オオサンショウウオが思い浮かびましたよ…

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