●怖い噺 弐


□コンビニのモニター
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後輩は、コンビニの深夜バイトをしていた

そのコンビニは、深夜になるとかなり暇になるらしい。後輩はいっしょにバイトしている先輩と、いつもバックルームでのんびり漫画など読んで過ごしていた

ある日のこと
いつもと同じようにバックルームでお菓子を食べながら、後輩は先輩と駄弁っていた。仕事と言えばたまにモニターをチェックするくらいである

モニターは画面が4分割されていて、レジ2箇所、食料品棚、本棚を映しているのだが

ふと見ると、本棚のところに女の人が立っているのを後輩は見つけた。腰まである異様に長い髪をした女の人だ

「おかしいな、チャイム鳴らなかったぞ」と先輩はいぶかしむが、たまに鳴らない事もあるので、さして深く考えず二人はまたしゃべり始めた

しかし、いつまで経っても女の人は動く気配を見せない。本を読んでいるのかと思えば、何も手にしていない。ひたすらじっと本棚を見つめているだけである

「おい、こいつ万引きするつもりなんじゃないか」

先輩が言った。どことなくおかしな雰囲気のする女の人である。後輩もその考えが浮かんだところだったので、頷いた。二人で挟み撃ちすることにして、バックルームを出る。先輩はレジ側から、後輩はバックルームへの出入り口から本棚へ向かう

いざ本棚へ到着してみて、二人は首をかしげた。そこには誰もいなかったのだ。おかしい絶対挟み撃ちにしたのに…

すると、トイレのほうから水を流す音が聞こえてきた。何だ、トイレに入っていたのか。
おかしな人だな、と思いつつ、二人はすぐバックルームへと戻った

しかしモニターを見て、二人は初めてぞっとした。さっきと全く変わらない立ち位置で、女の人が本棚を見つめていたのだ

早い、早すぎる

トイレからそこへ向かうのと、バックルームへ戻るのとでは、明らかにこっちの方が早いはずなのだ。しかもなんで同じ格好で本棚に向かってるんだ?

もしかして、モニターの故障では。顔を見合わせ、頷きあって二人はもう一度、バックルームから挟み撃ちの隊形で本棚へと向かった

すると、また女の人はいない

冷や汗がにじむのを感じながら、今度は何も言わずに二人はバックルームへと戻った。無言でしかし真っ先にモニターを確認する

「あ、いなくなってるぞ…」

先輩が呟いた通りモニターからは女の人の姿は消えていた。後輩の心中にほっとしたものが広がる。よく確認しようと、先輩の横に顔を乗り出した。その時

「待て、動くな」

先輩が突如、押し殺した声を出した。は?と思ったが反射的に従う。二人、モニターを覗き込んだ格好のまま固まっている

「いいか、絶対に今振り向くなよ」

やはり先輩が押し殺した声で言った。何でだろうと思った後輩だがモニターをじっと見てそれを理解した

画面の反射で、自分の顔と先輩の顔が映っている。しかしその真ん中にもう一つ、女の人の顔が覗き込んでいたのだ

悲鳴をこらえ、後輩はまさしく硬直した

じっと耐えること数分、その女は

「…………」

と何事か呟くと、すっと離れた

そしてさらに1分

もういいぞ、と言われて後輩はやっと息をついた。恐る恐る振り向いても、誰もいない

どくどく脈打つ心臓を押さえ、後輩はモニターから離れた

「ここって、なんかでるんやなぁ〜」

先輩は感慨深げに呟き、後輩のほうに同意を求めた

「そうですね」

と、先輩を振り向いて、後輩は再び硬直した。その視線をたどったか、先輩もモニターのほうへ向き直る

そこにはさっきの女の人が、しかも今度はカメラの方を向いて大口を開けて笑っている

もう二人は何も言わなかった

何も言わずにコンビニの裏口から飛び出したと言う…

−終わり−

バイトの途中で勝手に帰るとは…
怖くても勤務時間は守りましょう

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