●怖い噺 弐


□ヤマノケ
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以前他のサイトで「ヤマノケ」を見た

その話では娘からヤマノケがまだ落ちなくて途方に暮れると言う終わりだったと記憶している

実は俺の妹にもヤマノケが憑いた

しかしそのサイトと違う所がある。それは、ヤマノケが落ちたと言う事だ

当時俺は大学生で二十歳、妹は中一で十三歳だった。妹はよく俺に懐いていて俺もそんな妹を可愛がっていた

夏休みのある日妹と二人でドライブに行こうという事になった。俺は父の車の運転席で妹を助手席に乗せて上機嫌だった。妹は賑やかな方ではなくいつも大人しい感じだったが、よく笑う可愛らしい子だった。そんな妹は助手席で珍しくはしゃぎながら「どこ行こっか! どこ行こっか!」と笑っていた

特に行き先を決めてなかった俺は「どこ行こっかな〜」と妹に笑いかけながら適当に走らせていた

海で車を止め波打ち際で妹が裸足で遊ぶのを見守ったりちょっと一緒に遊んだりした

それに疲れた俺たちは車に戻り、適当に走らせコンビニを見つけた俺は妹を待たせて車から降りおにぎり四個とペットボトルのお茶二本を買って車に戻った

妹におにぎりとお茶を渡すと嬉しそうにおにぎりを頬張り「楽しかったね」と笑った。俺もおにぎりを食べながら家に向かって走らせていると妹が突然「止まって!止まって!」
と言った。俺たち以外車はいなかったので停めると「あそこから帰ろうよ」と妹が言った

妹の指差す先を見ると森みたいな所への入り口がぽっかりと口を開けていた。俺は怖かったので「やだよ。何か居たらどうすんの?」
と言った。妹は「楽しそうじゃん、肝試し肝試し!」と言う

結局駄々をこねる妹に敵わずそこに入った

しばらく走るがうっそうと繁った木々しか無い。しかも舗装されてない獣道を走っている為車は終始揺れていた。隣の妹を見ると眠そうな顔でぼんやりと窓の外を眺めている。そろそろUターンして帰ろうと考えているとフロントガラスに何かが思い切りぶつかった

ガツンッ!

「きゃあ!」「うおっ」咄嗟に急ブレーキを掛ける。妹は押し殺した声で「何今の何?」
としきりに言っていた

「ちょっと待ってろ。見てくるから。」俺は恐る恐る車を降りた。車を降りた俺に「待ってよ! ひとりにしないで!」妹は泣きながらシートベルトをガチャガチャしていた。俺は構わず車の前に移動する。するとそこには一羽のカラスが死んでいた。嘴の根元が顔に食い込み目玉が飛び出していた。

フロントガラスを見ると深いキズがついている。親父の車なのになと俺は嫌な気分になった

その時さくっ…さくっ…という音が遠くから聞こえてきた。落ち葉を踏む音なのだが普通に歩いてるのとは違いケンケンする感じで、てーんさくっ…てーんさくっ…と言う感じだった。しかも近付いて来てる

これはやばいと思って急いで車に戻りエンジンを掛けた。エンジンが掛かってほっとしたのも束の間タイヤが動いても車が進まない。キュルルと言ってタイヤは回ってるがその場の落ち葉が舞い上がるだけで俺は焦る妹は泣く

その時前方の木の後ろで動くものが見えた

俺は咄嗟に妹に向かって「見るな! 伏せろ!」と言った。それでも妹はパニクってて「へっ? 何?」とか言いながら泣いてるので俺が妹の頭を引き寄せようとしたらいきなりがくんって車が揺れた。見るとあいつが体当たりした様で大きな体が見えた

腕には犬の様に毛が生えてて大人の男位の大きさと長さ多分足も同じだ。顔はフロントガラスいっぱいでかなり大きいカービーみたいに顔が体だった。しわしわの顔で皮膚はごわごわ。口がでかくて大きい汚い歯がごちゃごちゃと並んでいた

そいつがもう一度体当たりした。その瞬間妹が顔を上げそいつが大きく口を開けた。妹も口を開けた。やめろと言おうとして俺は気を失った

どれくらい時間が経ったかわからない。一瞬かもしれないし数時間だったかもしれない。起きると妹は眠っていた。全て夢であれと思ったがフロントガラスには大きなキズがついていた

それからUターンして戻り俺は一心不乱に寺を探した。幸いなことに墓地がありその近くに寺があった

俺は妹をお姫様だっこの形で抱えて車から降ろした。おにぎりの包み紙と無垢な寝顔を見て取り返しのつかない事になったことを悟って俺は妹の服に涙を落とした

俺は寺に行き妹を抱えたまま「すみません」
と言った。出てこなかったので戸を少し叩いて「すみません」と言い続けるとお坊さんが出てきた。妹を見るなり「ありゃ」と言った

うつむく俺を見てお坊さんは黙って境内に通して座布団を二枚出してくれた。一枚は俺が尻の下に敷き、もう一枚は妹の枕として使った。お坊さんが口を開かないので、俺は言ってしまった

「ヤマノケですよね」
 
するとお坊さんは驚いたように俺を見た「うん。何で知っとる?」

俺はそれには答えず訊いた「出ていきませんか」

お坊さんは俺から目を反らした「うん。こいつは強めやな」

あまりにきっぱりと淡白に言われたので俺は怒りに近い感情を胸に抱いた。ドライブなんか連れてかなければあんな道入ってなければ

いろんな後悔が押し寄せてきてパタパタと涙が床に落ち染み込んだ

「この子が好きやろな」突然お坊さんが口を開いた。顔を上げると俺を見ていた。俺は頷いた
「ほんだら兄ちゃん、壊れてしまうかも知れんよ」
俺は妹を見た。俺の可愛い妹が変貌してしまったら俺は耐えられるのだろうか?

「帰った方が…」
「大丈夫です。大丈夫です…っ」俺はもうグシャグシャに泣きながらお坊さんを見た。どんな妹でも逃げない俺の責任だから。お坊さんは頷くと妹に歩み寄った

「かぅらぁあーっ!」お坊さんが大声を上げたので俺はビクッとした。その瞬間妹はパチッと目を開きむくりと起き上がった

「はいれたはいれたはいれたはいれた」お坊さんはそんな妹を思い切り平手打ちした。妹は「ひいぃっ」と言ってふっとんだ。俺は拳を握って耐えていた

妹はハァハァと荒い息をしながらそれでもへらへら笑っている。そんな妹にお坊さんはつかつかと寄ってパンパンパンと繰り返し平手打ちをした

妹はやがて涎を滴ながら踞りピクリと動くだけになった。お坊さんはそんな妹を隣の部屋に引きずって行きぴしゃりと戸を閉めた

やがて隣の部屋から「あ…っ…あふん…あんっ」というHの最中の女の様な喘ぎ声が聞こえてきた。俺がお坊さんを見るとお坊さんははぁーと溜め息をついた

以後俺がお坊さんから聞いた話を纏める

ヤマノケは人間の情事による快感が大好きな下劣な妖怪だ。男と女ではその快感は女の方が勝るためヤマノケは女に取り憑く。ヤマノケは憑いた後はひたすら自慰を繰り返すらしいその人間が死ぬまでずっと。ヤマノケは死なないのでその人間の体が死んだらまた新しい人間に取り憑く

ヤマノケを落とすのに一番効果的な方法は、苦痛を与え続ける事とまたはこの上ない大きな苦痛を与える事

具体的な方法としては前者は拷問を続ける事爪を一枚ずつ剥がしていって十枚剥がして落ちたヤマノケも居れば、二十枚剥がしても憑いたままのヤマノケも居た様だ

後者で具体的な方法は出産だそうだ。出産に耐えられるヤマノケは殆ど居ないらしい。しかしお坊さんにはそれを言わない人が多い道徳的に

そして俺は選択を迫られた。妹に憑いたヤマノケがどこまで我慢できるか妹の体を傷つける方法

ヤマノケがおちる可能性は非常に高いが妹を十三歳の幼さで母にする方法

ヤマノケが勝手に出て行くのを待つ方法もあるがそんな事はほぼ無いらしい

両親にも連絡を取り最初は大変取り乱していた両親だかお坊さんが何とか話して落ち着かせてくれた

そして選んだのは…妹に出産させる方法

母は泣いていた。父はずっと黙ったまま俯いていた。きっと二人ともこんな事態になって俺が憎かったろう

行為はその翌日に行われる事となった。父親となる人はお坊さんが呼んでくれた専門的な人らしい。真っ黒な髪は長く膝位まで有りそれをひとつにくくっていて甚平みたいな服を着てた

お坊さんはその人に話し掛ける時耳打ちする様に喋った。その人は頷くだけで一言も喋らなかった

そして次の日の夜行為は行われた。両親は帰って俺は残りたいと言い残った。お坊さんの計らいで俺の寝る部屋と行為が行われる部屋は一番離れていた。しかし妹の喘ぎ声が一晩中響いていた。俺はその夜ずっと今までの無垢な妹の笑顔とか思い出を思い出して泣いていた

途中お坊さんが入ってきてお茶を置いてくれたが泣き続ける俺を見て「だから帰れと言ったんや」と呟いた

そんな一夜を過ごした数日後お坊さんが暗い笑みを浮かべて俺に言った「〇〇ちゃんに赤子ができた。良かったな」俺は無表情で頷くのが精一杯だった

そして俺は家に帰ったが、またすぐに寺に行った。家に俺の居場所は無かった。流石に直接は言わないが両親は確実に俺を非難していた。しかし寺に行っても俺は辛かった。なるべく妹と顔を合わさないようにしたが、聞こえる嘔吐音と便所の吐瀉臭、自慰による淫らな喘ぎ声

時にはお坊さんに淫らな行為を求め抱き着く事も有ったらしい

俺は発狂の寸前でいつも泣きながら生きていた

あの数ヶ月はずっと同じ気持ち過ぎて長かった様にも短かった様にも感じられる。そしてその日

「生まれるぞ!」お坊さんは俺を呼びにきた

ヤマノケの執着心が苦しみによって薄れた瞬間妹を呼ぶ事が大切なのだ。お坊さんに手を引かれてまた俺は泣いていた。その部屋に行くとこの世のものと思えない不気味な絶叫が響いていた

「うあぁあっん! ぎぃやあぁあう!」全裸の妹は嫌という程足を開かされ、手足を押さえ付けられていた。苦痛に歪めた表情の合間にあのへらへら笑いを覗かせる。汗で髪を額にくっつかせた妹の顔に以前の面影は無い

その時「うぁあっ…あ…あ」
 
お坊さんが叫んだ「今だ!」

その時そこに居た全員が妹の名前を狂った様に呼んだ。お坊さんは何かお経を唱えている様だった

「あ…あう…」妹はもうへらへら笑わなくなっていた。目を見開いている

「〇〇、帰って来い! 〇〇、〇〇ー!」俺は声の限り叫んだ

「あんぎゃあ!あんぎゃあ!」お坊さんは呟く様に言った。「生まれよった…」
 
妹を見ると安らかな顔で気を失っていた。へらへら笑いはもう無い。終わった事を悟り俺はへたり込んだ

その一週間後俺は妹と車で帰った

妹は何も覚えておらず「体が変だよ…」と言い、張った胸を触っていた。助産師みたいな人がそういう病気にかかった事にしてくれていた。俺はそれに話を合わせ「元気になって良かったな」と言いながら以前と変わらず笑う妹を見て複雑な気持ちになった

しかしここからが悲劇だった

家に帰って一ヶ月程経ち妹が自殺した

あの事件で少し情緒不安定になっていた母が全てを妹に話したからだ。二人きりの時に全てを話したと母は言った「お前はもう処女じゃない」と言い膣に指を入れたりしたそうだ

その母は今は精神病院に入院している

この事件から俺の家族はバラバラになった

だから無闇に獣道に入らないでくれ。そして俺は妹の生んだ子供の行方を知らない

−終わり−

はい皆さんは気味の悪い獣道には入らないように
山には神様が居るらしいので
けして無闇に…

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