●怖い噺 弐
□ひよこ
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ある農家の話
ある日その家の幼い娘が楽しげな顔を浮かべて母親に言った「お母さん、お庭にヒヨコがいるよ。」「ええ? ヒヨコ?」鶏小屋から勝手に歩いて出てきてしまったのだろうか。以前にも鶏が脱走してしまったことがりあ、
それ以来鶏が逃げないようしっかりと柵を作ったつもりだったのだが
「きっと勝手に小屋から出てきちゃったのね。元いた場所に帰してあげなさい。」娘は「はーい」と応じると庭に出て行った
ヒヨコが気に入ったのだろうかその日以来娘は鶏小屋で遊ぶことが多くなった。最近の子供があまり得られない生き物と直に触れ合う良い機会と思い両親は娘を好きにさせていた
そんなある日、娘が泣き顔を浮かべながら母親に縋り付いてきた。母がどうしたのか聞くと、娘は涙をボロボロこぼしながら言った「ヒヨコがいなくなっちゃった…」
しばらくの間娘はかなり憔悴した様子だったがやはり子供というべきかそのうちいなくなったヒヨコのこともすっかり忘れてしまった
それから17年後
上京した娘から電話がかかってきた
母親が電話を取ると娘は怯えたような声で一方的に話し始めた
「お母さん、あのヒヨコが帰ってきの。」母親は受話器の前で首を傾げた「ヒヨコ?一体何の話?」
娘はさらに取り乱したようだった「覚えてないの?私が小さい頃庭で見つけたヒヨコよ!あの子が帰ってきたの。」
庭で見つけたヒヨコ。そういえばそんなことがあったような気もする。しかしあれはまだ幼稚園に上がる前の話ではなかったか
「そんな話あったような気もするけど…帰ってきたってどういうこと?」
しかしそこで電話が唐突に切れてしまった。何度かかけなおしてみるが繋がらない。結局母親は怪訝な顔をしたまま娘に電話をするのを諦めてしまった
娘が死亡したという報せが入ったのは翌日のことだった
遺体からは全身の血と眼球が抜き取られていた。後日、警察署で事情聴取ついでにいくつかの遺留品を見せられた母親はその場に凍り付いてしまった
部屋の机の上に置かれていたというその小さなメモ帳の切れ端には曲線のまったくない奇妙な字体でこう書かれていた
「彼夜子」
−終わり−
最後の「彼夜子」は「ひよこ」ですよ
僕は始め「かよこ」と読んだ…だって彼って
「かやこ」かも「ひやこ」かもしれないし
…やっぱ名前の漢字て読み方難しいよね