●怖い噺 弐


□金比羅様
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怖いというか不思議な話かも

母方の祖母が信心深い人だった

幼い頃群馬の母方の家に行くとよく子供だった自分の手を引いて山裾の神社に連れて行った

群馬は視界に山が入らないところが無い

母方の家はすぐ裏がもう山だ

近隣の墓はほとんど山中にあって蜘蛛の巣みたいに細かな路が入り組んでいる

金比羅様と祖母が呼んでいた神社というのは、丸太の鳥居、破れた障子、抜けた濡縁で管理されているとはとても言えぬ有様

でも祖母は何度となく私をそこに連れて行った

細い山路を私は付いて行った

祖母は神社をすごく有難がっていた

7つか8つぐらいの時だと思うが

「今日は特別」そう言った祖母は荒れ神社の裏手に私を連れて行った

初めて見る神社の裏は昼なのに暗い、夕暮れのようだった

そしてそこには人ひとりがようやく通れそうなくらいのすごく細い路が続いていた

路を登り下りけっこう進んだ先は開けた場所だった

明るくて不思議な場所だ

ローマのコロッセウムを半分にしたような大掛かりな雛壇のような石積み、段には小さい位牌のようなものがたくさん並び短冊のついた笹、折り紙飾りに仏花で彩られそよぐ風で風車が回転していた

私は嬉しくなった

手を合わせようとすると祖母は私を叱った

「ここは強い神様が居る。だからお願いごとをしてはいけない。きっとそれは叶うけどここの神様は見返りを要求する神様だから」

そう言った

そこにはそのあとももう一回だけ連れて行ってもらった

やはり変わらず鮮やかに飾られてとても綺麗な場所だった

私が中学校に上がってすぐ祖母は亡くなった
事故だった
とても悲しかったが突然だったので実感が持てなかった

さらに時は過ぎて私も大きくなり母から漏れる情報から母の実家の状況が分かってきた

祖母の死の前
母の兄は自動車整備の会社を辞めて独立していたが不況が重なり相当苦労していたらしかった
驚いた
叔父は高校に進んだ私に誰にも言うなとポンと10万円くれたこともある
事業だって順調そのものだ

母によると祖母の死を前後して赤字続きだった叔父の工場はグッと持ち直したそうだった
私は例の不思議な場所を思い出していた

もしかして祖母はあの場所でお願いしたんじゃないだろうか
「わたしはどうなっても構いません。倅の会社を救ってやってください」
って

きっとそうだと思った私はもう何年も行っていないあの神社にもう一度行きたいと思うようになった

次に群馬に行く事になったとき一人で神社に向かった

久々で少し迷ったが
どうにかあの神社に辿り着いた

でも私の行きたい場所は此処ではない
「あの場所」だ

私は裏手に回った
あの日と同じように

だが
そこに路は無かった
あった形跡も無かった
信じられなくて何度も神社の周りを回った
それでも無かった…

信じられなかった私は上記のような「あの場所」の様子を母に叔父に祖父に叔父の子どもたちに聞きまくった

でも答えは同じ

「そんな場所知らない」

私は怖くなった

すごく すごく 怖くなった

今思い出しながら書いていてもスゴク怖い

それ以来、神社はおろか裏の山自体にも近寄らなくなった

いや…それどころではない

あらゆる山道に恐怖を覚えるようになった

「あの場所」があの群馬の山中の何処かにだけあるとは思えなくなっていた
いつか何処かで突然あの場所に行ってしまうような気がするのだ

あの頃は自分の命を引き替えにしなければならないのならどんな願いも叶わなくていいと思った

でも今は必ずしもそうではない

もしそんな切羽詰ったときにまたあの場所に行ったなら…

そう考えると恐ろしいのです

−終わり−

何かを願えば それなりの見返りが必用になるのは当然のこと…

それは人を呪わば穴二つと同じこと

皆さんもお気をつけて

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