●怖い噺 参
□山のタブー
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子供の頃、近所のおじいさんに聞いた話です
そのおじいさんは若い頃一度事業に失敗し、実家の田舎に帰ったそうです
その家には持ち山があり、色々謂れもあったらしいのですが
若い頃に学業の為上京した彼は、その謂れなるものを全く知らなかったそうです
さて、ある日彼が山を歩いており
ふと茂みを覗くと、一羽の兎が居たそうです
しかし『兎だ』と思ったのは、単に耳が長かったからで
実の所、見なれている『兎』とは大分違う生き物であったとの事
毛もなく目も開いておらず、簡単に言うと『生まれたての子兎』のようだったとか
しかし、大きさは紛れもなく野兎のそれであったそうです
しかもよく見ると、その兎は酷く怯えており、彼が近付いても動こうともしません
よく見ると、後ろ脚が罠にかかっているようでした
罠と言っても彼の見た所、細い草に引っかかっている様にしか見えません
彼は別に何の気もなく、罠を外してやったそうです
そしてふざけて「恩返しをしろよ」と兎を見ると
先に語った姿の醜悪さなものですから、突然腹の底からぞっとし、逃げ帰ったそうです
おじいさんは帰宅後、これを家の人にはなしました
すると、家に来ていた分家筋の人たちが一斉に厳しい顔になり
「直ぐに出て行け」と言い出し、彼は新妻諸共叩き出されたそうなのです
彼はいたく憤慨しましたが、それから年経るにあたって、なんとなく理由を理解しました
奥さんは三度流産し、結局子供が出来ませんでした
「たぶん、あれは山の神様への生け贄で、自分が勝手に逃がしてしまったのだろう」
と、おじいさんは言いました
重ねて、実は村からたたき出された直後、あんまり腹が立つので、一度件の山に行ったのだと言いました
兎の居た辺りで気配を感じ、ふと上を見上げると錆び付いた斧が自分めがけて落ちてくる所で、慌てて飛び退いた、と
「たぶんあの時、自分が腕なり脚なりを切って捧げていれば、子供は助かったかもしれない」とも
おじいさんはとてもいい人でしたが、それでもタブーを犯してしまった報いを受けなければならないのだな、と思いました
−終わり−
お供え物は 奪ってはいけません