●怖い噺 参


□電話ボックスと女性
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私はオカルト好きなのですが霊感などはまったくと言っていいほどなく

今からする話まで体験したことはありませんでした

私が大学2回生の頃、季節は10月でした
6時ごろに大学の授業が終わり、いつもどおり家まで1時間かけて車を運転して帰ることにしました

そして、いつも通り帰る旨の報告と何か買い物するか聞くため携帯を手に取ると2年ぐらい使っていた携帯だったのでこの時間ではもう電池が切れかかっていて
電源を入れるとすぐにバッテリー切れの表示が出てしまうので「しょうがない、公衆電話から掛けるか」と思い車を走らせました

私が住んでいる地域はなかなかの田舎で大学までの道路沿いには田んぼがあるのは当たり前という風景です

通い慣れた道でも、いざ公衆電話を探してみるとなかなかみつからないものです

そして20分程運転しているとやっと見つかりましたが
その頃には日が早いせいか辺りはもう真っ暗で

見つけた公衆電話の場所というのは片側一車線の直線道路沿いの街灯の下にあり
近くには小さな売店がありましたが、もう閉店したらしくシャッターが降りていました

公衆電話が反対車線側に位置していたので寄せようと思い右ウィンカーを出しゆっくりと近づいていきます

するとボックスの中には長い黒髪で白シャツに黒のスカートというスタイルの女性がいました

当初、私は小雨の電話ボックスに女性というシチュエーションに「うわっ、これもしかして…幽霊?」と思い、引き続きゆっくりと近付きボックスに並ぼうとする所までじっくり見ていました

どうやら普通に電話を掛けている様子を見ると「なんだ、人間か」と内心ガックリ
そして5メートルぐらい過ぎた所のボックスとは反対側の路肩に車を止めました

車を止め振り返りボックスを見ると女性の顔は影になって顎のライン辺りしかみえなかった

雨が降っているしボックスに並ぶのもお互い気まずいだろうから私は車の中で音楽でも聞きながら待つことにした

ちょいちょいオーディオを触りながら待ち、ふと振り返ると女性の姿はもうなかったので「あぁ、迎えでも呼んで反対の方向に歩いていったんだなぁ」と思い私は、雨も大分小雨になっていたので歩いてボックスに向かうことに

ボックスに入ると中はムワッとしていて受話器も濡れていた「くっそー雨、嫌やなぁ」とか思いつつちょうどポケットティッシュを持っていたので手早く受話器を拭いてジーパンのポケットにティッシュをしまおうとした

…その時、自分の腕と脇腹の間から人の足が確認できた

一瞬、ドキッとして振り返ると先程の女性だった
うつむき加減な顔は相変わらず影になって見えない

「?」と思いつつ、軽く会釈をして電話を掛けようと受話器を持ち直した時、女性がいきなりドアの把手に手を掛けて開けようとした

私は咄嗟に折り畳み式仕様になっているドアを内側から太ももと左肘で押さえ付けた

「なんやねん、コイツ」と思ったが絶句して言葉は発せなかった
女性は右手で一定の強さで引っ張っている

暫らくそんな格闘をしていたが、ふいに女性はスッと手を離しスッーと私の車の方に近づいていった
その様子はオカルト好きの私がよく耳にしていた「幽霊の移動する様」そのものでした

もう私はガクブルで「ヤバい、車に…」と思う間もなく女は車のむこう側の影の方へ消えていった

どうしようか5分ほど思案していたがいつまでもボックスに居るわけにもいかず嫌々出ることにした

恐る恐る車に近付き横目で車中を見るが人の形は無かったので運転席を開け改めて中を確認してみても女はいなかった

「消えてくれたのかぁ」と安心したが車の中は電話ボックスのようなムワッとした嫌な空気だった
電話する事はあきらめ一刻も速く帰るため車を飛ばした

走り始めてすぐに後ろの座席に気配を感じた。湿気混じりの生温かい気配だ

私は「ミラーは絶対見ない、見たくない」と決め周りを視界に入れないよう自分の前だけ見て運転し続けた

すると今度は助手席に気配を感じた

あの女がいる、こちらを見ている
黒い影だったけどはっきりと目の端に映った

私は耐えかねて素早くルームライトを付け助手席を見た
しかし、ライトを付けようと腕を伸ばした一瞬の間に女の影は消えていた

その後気配は消えたが私はライトを付けっ放しで家路についた

後日この話を同じ大学に通い同じ道を通っているであろう高校からの友人に話してみると

その友人はサークルをやっているせいで8、9時にその道を通るのはザラみたいだった

しかしその友人は「いつも速く帰りたい一心だからわからない」と言った

そういえば私もあの時以外にあの電話ボックスに注意して見ることはなかった事に気付いた

そして「何か、あそこであったんじゃないか」と考え調べることにした

するとローカル新聞でそこでは放置車両がごく稀にあり、それと同時にその辺りに失踪者や行方不明者が発生していた

そして大学にもそのような貼り紙がしてあることに初めて気付くことになった

しかし肝心のあの女のような人はその中に見当たらなかった

そしてこの女の身元は未だわからない事から、この女が元凶であると推測される

もしかしたら、私も失踪者になっていたかもしれないと思うと洒落にならないくらい怖かった

−終わり−

私が幼かった頃はもう既に電話ボックスは消え始めていましたね

今では駅前の公衆電話まで撤去されて…

これから数年も経てば公衆電話での怪談は消えてしまうのでは?と思い始めた今日この頃

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