永遠の物語

□渦巻く黒に身を委ね、冷たい仮面で地に落とそう
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「Mr リドル」

「Ms メサイア?」




何時のように鬱陶しい女達に囲まれながら、彼女達の望むトム・リドルを演じていれば 絶対に校内で聞く筈の無い、僕の名を呼ぶ声が聞こえた。
まさかと思い声の方へと視線を向ければ そこにはそのまさかの人物。
表面的には不思議そうに、しかし内心酷く驚きながら その人物の名を口にした。




「どうしたんだい?」

「先程スラグホーン教授が貴方を探していたので。
監督生の仕事で何かあるようです」

「本当かい?
ごめん、迷惑をかけてしまったね」

「いいえ。
スラグホーン教授はけ…――――」
誰か!
ソイツ捕まえちょくれーーっ!!





事務的な会話は僕とマリアの距離を表しているようだった。
彼女と僕が親友足りえるの飽く迄あの屋上だけだと突き付けられたように感じる。
尤、このような対処を取らなければマリアが酷い目に会うのは分かりきっている事で、仕方ないと言えば仕方ないのだが。

少しの寂しさと苛立ちをうまく隠しながら、彼女の話に耳を傾けていれば、何か言い掛けたマリアを遮り響いた叫び。
鼓膜が破れそうなそれに思わず眉を寄せた僕の横で、マリアはあからさまに 「またか…」 と言うように溜め息を吐いた。
それに多少の疑問を覚えたが、それよりも此方に驚異的な速度で向かってくる 推測直径80p程の黒い球体を止める方が先だと杖を上げた。

制止呪文を唱えようとすると、それより先にマリアがその呪文を唱える。




「アレスト・モメンタム(制止せよ)」




マリアの呪文を受けて、僕達から1m程の距離で制止したその黒い物体は とぐろを巻いた巨大な百足だった。
側にいた女子はそれに煩い悲鳴を上げて後退る。




「これは…」




その正体に顔を顰め呟いた僕に合わせ、マリアも同じことを思ったのだろう。
険しい表情でその百足を見た。




「ああ、すまねぇ…お?
マリアじゃねぇか!」

「………Mr ハグリッド…また、貴方ですか…」

「う…、す、すまねぇ…」

「これで何度目だと思っているのですか?」

「うぅ……」




百足が来た方から、先程響いた叫びと同じ声の生徒が 鼻息も荒くやってきた。
彼は制止している百足に顔を青くしていたが、マリアの姿を捉えると一変、締まりのない顔に笑顔を浮かべて 嬉々とした様子を表した。
しかしそれも、マリアの責めるような台詞にビクリッと、大きな身体を大きく震わせる。
巨大な図体を縮込ませて呻くそんな彼、グリフィンドール三年 ルビウス・ハグリッドを僕は冷ややかに見つめた。
マリアはハグリッドに向かって「また」 と言った。
つまりこれが初めてという訳ではないのだろう。




「しかもこれは三年生に扱えるような生き物ではありませんし、何より危険生物に指定されている生き物ですよ?
分かっていて校内に放ったのですか?
そうならば貴方はただの罰則では済まされませんよ」

「ち、ちげぇです!
俺はわざとソイツを放したわけじゃ…」

「ならば逃がしてしまったと?
でしたら貴方はもう少し自身の能力に見合った行動をとるべきです。
貴方がこのような生物を飼うのは宜しくありません」

「だ、だけんど…」

「言い訳は無用です。
貴方はこの生物を扱いきれていない為にこの騒動を起こした。
もしこの生き物が生徒を襲っていたらどうするつもりですか?
貴方に責任を負えますか?
無理ですよね。
貴方はもっと身の程をわきまえなさい」

「………」




マリアの正論に俯き、沈黙したハグリッドに同情する気なんて更々ないが、このまま僕の目の前でハグリッドが自業自得とはいえ 一方的に責められる様を放っておくのは あまり得策とは言えない。
面倒な事この上ないし、なによりこんなクズを庇うなんて屈辱的だが…仕方ない。




「Ms メサイア、彼の行動は確かに褒められたものではないが もういいんじゃないかい?」

「Mr リドル…」

「グリフィンドールから30点減点。
ルビウス、残念だけどこの件は寮監に報告させてもらうよ」

「なっ!
ソイツはどうなる!?」

「残念だけどそれは寮監の判断に任せるよ」

「諦めなさいMr ハグリッド」

「だ、だけんど!」

「Mr ハグリッド」




この僕が穏便に事を運ばせようとしているにも関わらず、こんな醜い生物の為に煩く喚く愚かなハグリッドに苛立ちを覚える。
それを笑顔の仮面で抑え付けていると、急激に低くなったマリアの冷ややかな声に チラリとマリアに視線を向けて驚いた。
彼女は酷く冷徹な眼差しをハグリッドに向けている。
初めてみる、彼女のその表情に、怒りに、普段穏やかな笑みしか見たことのない僕は違和感しか覚えない。
マリアが、まるでマリアでないような…そんな気さえしてくる。




「Mr リドル。
迷惑をおかけてすみません。
この生き物と、Mr ハグリッドは私が連れていきます」

「いや、それは君に悪いよ。
これは監督生である僕の仕事だしね」

「けれど貴方はスラグホーン教授に呼ばれています。
多忙のようですし、やはり私が…―――」

「スラグホーン先生なら話せば分かってくれるよ。
それよりMs メサイア、君の迅速な行動に感謝するよ」




そう告げてその日は別れた僕達だが、翌日には苛立ちを隠す事も出来ずに屋上でマリアを問い詰めた。




「ハグリッドとはどういった関係なんだい?」

「…………ち、知人?」

「何で疑問系なのさ?」




マリアの何とも表現し難い困ったような表情に 僕の苛立ちも治まり、代わりに呆れた溜め息が漏れた。




「微妙な所なの。
会えば話はするし、親しいとは思うんだけど…」

「だけど?」

「友人関係は築くと大変な気がするのよね」




冗談っぽく困ったように、笑うマリアに 「懸命な判断だね」 と返した僕だが、内心の感情の乱れは酷かった。
マリアがあの蛮族と話していたあの場面ばかりが浮かび、嫌悪が増す。
この場所以外では決して僕が口に出来ないマリアの名を 当然のように呼び、親しげに話すあの声が嫌にいつまでも耳から離れない。






















険悪、怒り、嫉妬、侮蔑、嘲り



















あの愚鈍な蛮族に対する負の感情が僕の中で黒く渦巻く。

















この時、
彼の運命はもう既に決まっていたのかもしれない。


































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