永遠の物語

□立場を替えた道化師のアイジョウ
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何時もの屋上。
響く歌声…。



あのスキーターの件はマリアの呼び出しから3日も経たずに落ち着いた。
スキーターが、自身の過失を公に認めたのだ。
アブラクサス達の仕業かと思えば、どうやら違うようで、彼等は自分達ではないと首を振る。
調べさせてみるも一向にスキーターが過ちを認めた経緯は分からず、アブラクサス達も困惑を表していた。





悪の華 可憐に散る

鮮やかな彩りで

のちの人々はこう語る

嗚呼

彼女は正に







悪の娘

「悪の娘」










マリアの歌声と僕の声が重なった。
驚いたように僕を凝視する彼女に苦笑が浮かぶ。




「これだけ何度も聴いていれば、歌詞なんて自然と覚えてしまうよ」

「そう、…だよね…」




何処か遠くに想いを馳せるように、自嘲気味に笑うマリアにチクリ、と胸が痛んだ。
彼女の想いは何処にあるのか、懺悔するかのように歌う彼女の姿を見る度にそう思う。




「ねぇマリア、この歌の娘は、その後どうなったんだい?」

「っ、!?」

「マリア?」




何気ない疑問だった。
マリアの歌う“悪ノ娘”“悪ノ召使”は、国の顛末と召使の最後を語るだけで、逃げ出した娘については何も触れていなかった。
何故かどうしても好きになれない歌だというのに、その歌について問うなど可笑しな事だが、何故か“娘”のその後がとても気になった。

マリアの…彼女が時折歌う“召使”の歌に感化でもされたのだろうか?
どうしてか、娘に笑っていて欲しいと願う自分がいる。

だから訊ねてみたんだ。
本当に、ふと浮かんだ何気ない…けれどとても気になった疑問だったから。
しかしその問に、マリアは大袈裟と思える程に身体を揺らし、困惑と苦悩の表情を浮かべて 僕の視線から逃れるように俯いてしまった。
それに僕は驚いた。
何故マリアがこんなに反応を示すのか…。




「マリア…?」

「……娘…は、………生き延びたよ。
海辺の、小さな港のある町で…余生を過ごした」

「ふーん…、そうなんだ」




沈んだ声のマリアを怪訝に思いつつも、娘が生き延びられた事に何故か安堵する自分がいて驚かされる。
ここまで たかが歌に感情移入していたのかと、自分自身に呆れてしまう程に。




「ねぇマリア、娘は笑っていたのかい?」

「っ、え、えぇ…」




ただの問、それにマリアは無理矢理作り上げた笑顔を浮かべて頷いた。
しかし余りにも不出来なそれに、僕は思わず顔を顰める。




「マリア、一体さっきからどうしたんだい?
様子が変だ」

「………」

「マリア?」

「少し、昔を思い出していただけ。
ただ、それだけだよ」




とても酷い表情。
様々な感情が入り混じり、それでも無理に繕ったその笑顔はとても見れたものじゃない。
そんなマリアの表情を見て、
そんな顔をして何がそれだけだ、と そう怒鳴り付けてやりたかったが止めた。
触れて欲しくない。
マリアの表情はそう語っていた。





























ねぇマリア。

君だろう?

スキーターの件を処理したのは。

僕を侮ってもらっちゃ困るね。

アブラクサスやオリオン達は気付けなかったようだけど、スキーターの自首の件にマリアの影がちらついていたのに僕は気付いているんだよ?

あの日の宣言通り、
君は僕の部下の誰よりも迅速に、
誰よりも的確に、
物事を運んでくれた…。

少し、スキーターに対する処罰が甘い気もするけれど、それでも君は僕の予想を上回る優秀さで、僕の力になってくれた。


それだけじゃない。

君は出会ってからというもの、
ずっと僕の支えとなってくれている。

僕も君の支えになりたいと、
力になりたいと思っているのに…

なのに…







君は僕に、
決して助けを求めてはくれないんだね。




















まるで君は…



















あの“召使”のようだ































小さく告げたそれが、マリアに聞こえたかは分からない。

ただ、
儚く笑う君が消えてしまいそうで


どうしようもなく、恐かった…。



























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