酒井参輝詞3

□春時雨
1ページ/1ページ

未だに暁を覚えずに微睡みの中
ぽつりぽつりがしとしとへ移ろう虚ろ
褪せ行く時の中 ただ立ち止まり蹲る
眼裏の冷たい闇は優しい嘘
生きず死なず 彷徨うでもなく
漂う稀薄 此処に在らず 何処 其処 彼処
生きるままに死殻となるか
其の滓を焼べ 死しても生き 嘘を喰らうか
己が心の内 撫で廻すのは
救いを着飾りて巣食う己が餓鬼
群がり祀り上げ貪り尽くされるだけ
此れは「夢」か「現」か…
御覧遊ばせ
死出の旅へ 其の背を押すのは
共に散り行く薄紅色 数多の命
志せば纏わり付くのは落葉の蜜
私語を掻き消したざわめき
音も無く散る命飾る音
声無き雨の唄 弔いの餞として
喰らい飲み込む優しい嘘
今宵もまた朧に隠れて毟り取られる
其の腕を払えぬ脆弱
生きぬままに死に様を選ぶ 晒すは不様
目擦れど暁は遠く
痛みに咽び泣いて喘ぎ置き去りにされ
過ぎ去りし遥か彼方
紛い物の優しさが瞼を落とす
冷たい眠りへ誘う
「春時雨」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ