ごちゃまぜ小説
□拳×修小説
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第一話【再会】
俺が死神になる十数年程前、憧れた人がいた。
強くて、男らしくて、かっこよくて。
「…六車九番隊…か。」
左頬に刻んだ数字を見る度に、虚に襲われた俺の前に嵐の様に現れて、嵐の様に去って行ったあの背中を思い出す。
あの人を追い掛けたくて追い付きたくて死神になった。
努力して、努力して……漸く席官になったその時、あの人はもういなくなった後だと知った。
今では逃亡した重罪人として扱われているらしい。
「(どうして……)」
何か、あの人に逃げなければならないような理由があったのだろうか。
敵や困難に背を向けるような真似をしなければならない理由があったのだろうか。
そんな疑問ばかりが思考を埋める。
最近は決められた仕事を淡々と終わらせるだけの空虚な日々が続いていた。
「(どうして……)」
「檜佐木。」
「……あ、はい。どうかしましたか?」
東仙隊長に声をかけられると真っ白な報告書が見えた。
漸く筆が止まっていたことに気付き、頭を振って雑念を飛ばす。
自分の責任の無さに呆れながら隊長に促されて隊長室に入ると、俺が扉を閉めたのとほぼ同時に声をかけられた。
「仕事には慣れたかい?」
「ええ、大分分かってきました。」
「そうか…。
……どうやら、疲れているようだね。」
「え?」
「まだこの間の演習の事を引きずってるのかい?」
「っ、いえ……」
それは俺にとって席官になってから初めての演習。
そして、席官になってからの初めての失態。
それを忘れたいとは言わないが、いつまでも覚えていたいものでもない。
無責任に戦うのが恐いと打ち明けた俺に、東仙隊長は優しく諭してくれた。
素直にかっこいいと思った。
あの人の力強さとは違う柔らかいものだったけれど、どちらのかっこよさにも惹かれてしまう。
そんな隊長に心配をかけたくなくて、俺は無理矢理慣れない笑顔を作った。
「気にはしてますが、引きずってることはないです。」
「…それならいいんだけれど。
最近、仕事の量が増えている気がしてね。」
「そうですか?」
そう言われてみてはたと気付く。
確かに仕事の量が増えている気がしなくもなかった。
「檜佐木。明日は休んでくれないかな。」
「…え…?」
「やはり疲れが溜まっているみたいだね。」
苦笑しながら渡された書類は昨日俺が提出したもので、意味も分からず読み返してみて驚愕する。
誤字、誤字、脱字、誤字……それ以外にも文法が間違っていたり、初歩的な間違いばかりだった。
「す、すみません隊長。今すぐ書き直してきます…!」
「いや、いいんだよ。檜佐木に任せている書類は他の隊に回すものじゃないからね。」
「……すみません。」
「だから明日はお休み。…分かったね?」
「………は、い。」
「そうだ。現世に行ってみるといい。
いろいろ珍しいものがあって勉強にもなるよ。」
「はい。」
隊長の細かい気遣いに自分の情けなさを痛感する。
失礼しますと頭を下げて隊長室を出れば、無意識の内にため息が零れた。
「(休み…何をするか。)」
隊長の言う通り現世に行くのもいいかもしれないと考えながら、真っ白の報告書に手をつけ始めた。