短 編 集
□愛し愛され生きるのさ
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………土方ぁっ!
―――声が聞こえる。
…土方っ、土方ぁっ!
―――どこか、遠―いところから。
なんでだよぉっ!「ずっとそばにいる」って…言ったくせにっ!
―――そ…うだ…。確かにそう言った。誰かに…。誰に?頭がハッキリしねェ…。
嘘つきぃっ!ばかっ!ばかばかばか、ヘタレやろー、マヨ狂いっ、くされチンコっ………
―――言ってることはずいぶんだが……でも…。
侍のくせに約束も守れねーのかよっ、目ェ開けやがれっ、こんちくしょーっ!
―――聞いてる方が苦しくなるような、悲痛な声……。
………イヤだ…
―――声を震わせて…何をそんなに取り乱して…
ヤだヤだヤだヤだぁ――っ…………俺を置いて……逝くなよぉ………っ
―――この声は………………………銀…時……?
* * *
「坂田っ、落ち着けっ!刀を離せっ!!」
「るせェっ!テメェにゃ関係ねェっ!俺はダメなんだ、コイツがいないと……離せっ!邪魔しやがるとテメーもぶった斬るぞっ!!」
「それで気が済むならそうしろっ!このままオメーを逝かせたんじゃ…どのみち俺ァあの世でトシに合わせる顔がねェ。あの世で鬼に斬られるんならこの世で夜叉に斬られたって…構やしねェさ」
「…………っ」
「何よりコイツ自身が後追いなんざ許しゃしねーよ!そのぐらい…ホントはオメーにだって判ってんだろ……?」
「…けどっ…コイツがいねーのに、俺だけなんて…そんな…そんな………う…うぅっ…うっ…ひっ…く………土方ぁっ……」
―――な…んだ?この会話は?まるで俺が死んだみてーな…
「っ…ぅわあああぁぁぁ――んっ、そんなのヤだよおぉぉっ……土方っ、土方あぁぁぁっ」
―――銀時……そんなに泣いて、俺を呼んで………。酷ェ思いをさせちまったな。でも大丈夫だ。泣かなくていい。俺は生きてるんだから。
―――後を追おうとするなんて…。バカ。なんつーことを考えんだよっ。近藤さんの言う通りだ。ンなことして俺が喜ぶとでも思ってんのか?バっカやろー…。
―――でも……泣かせやがるぜ。普段は素っ気ないぐらいだったが…本当はそこまで俺のことを想ってくれてたんだな、お前…。いま安心させてやるからな!銀時…っ!
「…!!……う…ごいた………」
「………なんだって??」
「今コイツの手、動いた」
「……あのなぁ坂田。気持ちは判るが…」
「嘘じゃねェっ!動いたんだ!気のせいなんかにするなっ!!い、い、医者呼べよっ、医者ぁっ!」
* * *
「トーシっ」
「あ?ああ…なんだ?」
「なにボーっとしてんだよぉ。…楽しく…ねーのか?」
「ンなわけねーだろ」
「そォかぁ??あ…やっぱまだ…カラダ、辛ェのか?」
「ばか、違ェよ。それは何ともねェ。心配すんな」
そう言ってわしゃわしゃと髪をかきまぜてやると、ほっとしたように笑顔を見せる。
あれから3日経って、俺たちはいま船の上、だ。海風が気持ちいい。
* * *
俺の容態は、なんでも意識さえ取り戻しちまえば他は何の問題もないものだったらしい。
「間違いなく、不可逆の状態だったんですけどねぇ…不思議なこともあるものです。ま、せっかく助かった命です。大切になさいね」
医者はそう言って、ひと通り検査した後、あっさり退院を許可した。
そもそも、なんでそんなコトになっちまったかってーと。
巡回中のことだった。4階建て程度の小さなビルからもうもうと煙が立ちのぼっているのを発見した。火事…か?
近寄って確認し、即座に携帯で消防に出動を要請すると、俺は迷わず中に飛び込んだ。
言うまでもなく真撰組は対テロ専門の組織だ。火事は専門じゃねェが、爆破はヤツらの十八番(オハコ)だからな。火災時の対処法はひと通り身についてるし、何より火消しが来るまでぼーっと待ってるだけってなワケにゃいかねェ。モノは火事だ。一刻を争う。犠牲者を最小限に抑えるためには初動が肝心だ。少しでも早く、中の人間を誘導しねェと…。
取り残された人々のため脱出ルートを確保し、あらかた避難させた後、他に生存者がいないか探して回る。火の手はかなり強まっていたが、この程度ならまだ少しは猶予があるはずだ。
その時、急にそれまで感じていなかった息苦しさを感じた。煙に混じってほとんど判別出来ねェが、僅かに鼻につく匂いがするような…。
有毒ガスか!ヤバい!
そう思った時にはもう遅かったようだ。
そこから先は覚えてねェ。
昏倒しているところを救急隊員に運び出された俺は、すぐさま病院に運ばれたが、そのまま息を引き取った(らしい)。
* * *
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