短 編 集
□それがアナタの生きる道@
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A long long time ago…と、お決まりの文句で始まるこのお話。
はて…?いつかどこかで聞いたような…?と首を傾げられる方もあるかもしれません。
元は同じお話が、時代により場所により、形を変えて語られるのはままあること。
これもまた、そういった変形版のひとつであるのかもしれませんし、あるいは…もしかしたらこのお話こそが、他すべての類似するお話の元となった真実の物語であるのかもしれません。
* * *
むかしむかし、あるところに、美しいお姫さまがおりました。
その姫は、この世のものとは思えぬほどの美しさを備えておりましたが、ただ美しいだけではなく、人々の幸福を真に願い、そのために少しでも役立てることを何よりの喜びと感じるような、無垢で気高い魂をお持ちでした。
国中の誰もが、そんな姫に惜しみない感謝と敬愛を捧げ、穏かで暖かい暮らしが営まれておりました。
ところが。
正道を往く者を快く思わない者がいるのは世の常。
皆の信頼と尊敬を一心に受ける姫を邪魔に思った悪い魔法使いが、ある日姫を抹殺せんと城に雷を落としたのです。
姫を守護する精霊が咄嗟に姫をお守りしたのですが、力及ばず。
姫は寸でのところで死は免れたものの、眠りの呪縛にとらわれ、いつ醒めるとも知れぬ深い眠りに落ちてしまいました。
姫の命を守ることに持てる力の大部分を費やした精霊には、その眠りの呪縛を解くこと叶わず…残された最後の力を振り絞って、ある物に魔力を込めました。
精霊が命を賭して残した、それは希望の種。
いつの日か必ず、姫を目覚めさせてくれる者がこの城に導かれるように…。
* * *
それから百年という長い長い時間が過ぎました。
城の外では、茨が好き放題にその蔓を伸ばし、いつしか完全に城を覆うまでになりました。
見栄えよく整えられ、城壁にそこはかとない威厳と彩りを添えていた頃の面影はもうありません。
そして、かつてこの城で起こった悲劇を知る人間もまた…。
しかし、親から子へ、子から孫へと、密やかに語り継がれたその“お話”はいつしかその地における伝説となりました。
本当にあったことなのか、単なるお伽話なのか…それすらもあやふやなまま…それでも消えることなく息づいていたのです。
* * *
さて、話は変わって、その伝説の地からさほど遠くない場所に位置する、とある王国。
煌びやかな宮殿の奥まった一室にて、国のブレーンたる大臣たちが一堂に会しております。
国王は十五年も前にお亡くなりですが、未だその王座は空席のまま…。
それというのも。
国王が病に倒れられた時、妻である女王は既に他界しており、一粒種である世継ぎの王子はたったの4歳という有り様。
自らの死期が近いことを感じ取った国王は、まだ国を背負う覚悟も、それに必要な知識や経験も持たない幼い王子に王位を継がせることを良しとせず、王子が二十歳になるまで即位を待つようにと遺言したのでありました。その時が来るまで、どうか国と…王子を頼む、と。
お優しい方でしたから。幼い王子がその意味も判らぬまま王位に就き、重責に苦しむことになるのでは…と心を痛められたのでしょう。
また、大変聡明な方でもありましたので。選択の余地もなく“跡を継がされてしまう”ことが、どれほどの危険を孕むものであるのか、それを見通した上での配慮だったのかもしれません。
思考の柔軟な十代のうちは様々な経験をし、その上で、明確な意思をもって「王になり国を守る」道を選び取って欲しい。
それは、「王が世継ぎに望むもの」である以上に「父が息子に望むもの」…。
決して言葉で託されることはありませんでしたが、先王の傍に長く仕え、共に国を支えてきた重臣たちには、その思いはしっかりと伝わっておりました。
今日この場に集った大臣たちがその遺言を遂行し続けて、幾星霜。
“国王不在”という状態は国を統治する上で、また、近隣諸国との外交において、途轍もなく過酷なものでした。
それでも大臣たちは亡き王の遺言を忠実に守り、耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、実に十五年もの間、立派に国を支え続けました。
しかし、それもあと僅かのこと。
スクスクと成長し、今や美しく聡明な若者となった世継ぎの王子、晋助様が、間もなく二十歳の誕生日を迎えられるのです。
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