短 編 集

□それがアナタの生きる道C
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「いや、いいんだ…。謝ってもらうほどのことじゃない」

気まずげに俯いた姫の顔は、憂いを帯びて儚げに見え…晋助は堪らない愛しさを感じ、思わず頭に腕をまわして自分の胸に押し当てました。

ふわふわした髪が首筋に当たり…甘い香りが一段と強くなったように感じられます。

「ちょっ…何を……」

「母上も…そして父上も俺が幼い頃に亡くなって…俺にはもう家族はいない。それを寂しく思わなかったと言えば嘘になる。でも、これから新しく家族を作ることは出来る」

「…そうだな。前向きじゃねーか。そーゆーの、スキだよ…。けど…とりあえず離してくんない?」

離す?何でだ?

こんなにしっくり腕に馴染む身体を他に知らない。

離したく、ない。このままずっと…。

出会ったばかり。お互いのことはほとんど何も知らない。

なのに、こんなふうに思うなんて…アリかよ?



もしかしたら自分はいっときのテンションに流されようとしているのではないか、という考えがちらりと胸をよぎりました。

それでも晋助は突き上げてくる衝動に抗うことが出来ませんでした。“この人を手に入れたい”という…。

誰に押し付けられた訳でもありません。晋助自身の心がそう求めて止まなかったのです。

そして晋助は、自らの心の求めるまま、自然とその言葉を口にしていました。

「俺と…生涯を共にしてくれ。全然姫らしくねェが…そんなことはどうでもいいんだ。そばに…いてほしい…ずっと…」

それは、晋助の偽らざる気持ちでした。

何故そんなふうに思えるのか、自分でも不思議なくらいでしたが、“コイツじゃなきゃダメだ”という強い思いがどこからか湧いてくるのです。

それもやはり“運命の相手”だからなのでしょうか…?



ぐっ、と抱き締める腕に力を込め、息を詰めて返答を待ちました。

きっと、頷いてくれるはず。自分たちは運命によって定められた恋人同士なのだから。

しかし、返された言葉は…。

「は?……えーっと…その……何かカンチガイなさってるんじゃ…?」

……おかしい。こんな流れになるはずでは…。

内心そう思いながらも、晋助は出来うる限り優しく、姫の言葉に答えます。

なにしろ相手は長い眠りから目覚めたばかりなのですから。状況を把握出来ず、困惑するのも当然なのかもしれません。

「勘違いなんかじゃないさ。俺は…アンタに会うためにここに来たんだ。そしてアンタをひと目見て…ずっと一緒にいたいっていう気持ちになった。何でかなんて、俺にもわからねェ。わからねェのにそう思えちまったんだ。そういう運命なんだ、きっと…」

「うんめい?運命…って……イヤイヤ、そんなワケないって」

「信じられねェか?そうだよな…俺だって元々は“運命”の存在なんて信じてなかった。だが今は、信じてる。確かに俺たちは出会ったばかりで、お互いのことも何も知らねぇ。けど、それでも。俺はアンタに惹かれた。今は“これが運命だ”って思える…。突然のことで戸惑うのもわかるが…俺を信じてくれないか?」

「や、その…もう一度よく考えた方がいいと思うよ?主にキミにとって。一時の気の迷いってコトもあるし…さ…」

「考えたってこの気持ちは変わらねェ。アンタじゃなきゃ駄目なんだ。他の誰でもねェ、アンタに居てほしいんだ、俺の傍に…ずっと…」

晋助は必死に自分の気持ちを訴えました。女性を口説くのにこれほど真剣になったことなど初めてでした。

「しょーがねーなぁ…あんま気は進まないんだけど。その…落ち着いて聞けよ?」

“気が進まない”という言葉に一瞬ビクリとしましたが、その後についた、“けど”は逆説を表すハズで…。

是か?否か?答えはどっちだ?

どうか「イエス」であってほしい。

晋助は、いつになく緊張しながら、返答を促しました。

「俺は落ち着いてる。だから返事を聞かせてく…」

「俺、男なんだけど?」



???

……意味が…わかりません。



「オトコ。わかる?アンタと同性ってこと。平たく言えば、股にアンタと同じモンがついてるってこと。Can you understand ??」



おとこ、どうせい、あんたと、おれ、おなじもんが、またに、あんだーすたん。

言われた言葉が意味を為さない単語の羅列となって脳内を駆け巡ります。

しばらく乱舞していたそれらが、意味を持ったひとつの文章として組み替えられた瞬間、晋助は絶叫していました。

「男オォォ――――っっっ!?」

ここへ来てから様々な出来事に遭遇し、驚きの連続でしたが…これはもはやその比ではありません。凄まじいばかりの衝撃にいつもの冷静さは跡形もなく吹き飛び、晋助はパニック状態で捲くし立てました。

「なんで?伝説のお姫さまがなんでオトコ?バカ言うな!そんなハズねぇだろーがっ!見え透いたウソついてんじゃねぇっ!俺ァ騙されねーぞ!オラァっ、この通りなんもついてやしねーじゃ………どわぁっ!!」

完全に我を失い、真偽を確かめるにはこれが一番確実とばかりに、姫の股間に手を伸ばすという暴挙に出たのですが…再び悲鳴をあげて固まってしまいました。

ついて…いたから。何がって…ナニが。





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