短 編 集

□それがアナタの生きる道E
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あらぬ熱を持ってしまった身体を落ち着かせるように自分で自分を抱き締め、肩で息をしながらも、悪フザケもここまでだろう、と安堵の溜め息を吐いた銀時でしたが…まだオワリ、ではありませんでした。

晋助は、床にぺたりと座り込んでいた銀時を組み伏せて仰向けに転がすと、自分の身体を重石にして動きを封じ、更に執拗に唇を重ねてきます。

「マジかよっ…ふぁっ…んっ…んんー…っも、ヤメっ…んぅっ…あっ!」

顔を横に逸らせてキスから逃れようとすると、耳を舐められ、舌を差し入れられ…銀時の身体にゾクゾクと痺れが奔ります。

「わ…かった!オメーがキス超上手ェってのは十分わかったからっ!だからもうっ…んっ…ぁあっ……ぅ…わああっ!」

銀時の身体を跨ぐようにしていた晋助が両足の間に膝を割り込ませようとした瞬間、銀時の中から相手を気遣う余裕が跡形もなく吹き飛んでしまい…その直後、晋助は鳩尾に強烈なヒザ蹴りを食らってふっ飛び、床に倒れ伏しました。



 * * *



「ぐっ…うぅっ…ぅぅぅ…っく…く…くっ…くっくっ…くははっ…はははははっ!」

蹴られて転がった晋助の口から呻き声が発せられ…それが次第に笑い声へと変わってゆきます。

行き場のない気持ちに…出口のない思いに…苛立って。銀時にぶつけたようとした…はずでした。

思い通りにやっちまって、いっそ嫌われてしまえばいい、と。半ば自暴自棄にそんなふうに思って無理矢理キスを仕掛けたはず。

しかし、途中から自分の行動を支配していたのは…“銀時が好きだ”という思い…。

ただ愛しくて。ただ触れたくて。触れればもっと欲しくなって。

思いを吹っ切ってしまいたかったのに。

結局どんなに愛しく思っているかを思い知らされただけ。



なんて救いのない恋なのか。

運命の存在を信じて。意気揚々とこんなところまで出向いてきて。あげく、出会えたのは幸福ではなく、こんな絶望的な恋だなんて…。

こんなのが、俺の運命?共に生きたいと…心から願った相手と自ら望んで決別しなけりゃならないのが?

まるでやっすいメロドラマみてーじゃねーか。笑わずにいられるかってんだ。

喉の奥から洩れ出る自分の嗤い声に交じって、銀時の声が聞こえてきます。

あんなふうにされといて…。なのに何でそんな心配そうに俺を呼ぶんだよ…。

しっかりしてくれ…死んじゃヤダよぅ…と。涙声で繰り返し自分の名を呼ぶ銀時。

ゆっくりと目線を動かすと…嗤いながらいつの間にか涙を滲ませていた晋助のぼやけた視界の端に、銀時が映ります。

銀時、テメェ…何で泣いて……?

晋助の目に映る、歪んだ泣き顔…。それでも、とてもとても綺麗な…。



………ぎんとき。

………なんかわかんねーけど…やっぱすきだ…。



風で霧が払われるように。晋助は自分の心が急に澄んでゆくのを感じました。

晋助は、銀時を好きになってしまったのです。どう足掻いても、それはもう変えられるものでも、無くせるものでもありません。

ならば…。

抱えてゆくしか、ないではありませんか。



自分ひとりのために皆が不幸になるような道を、晋助はどうしたって選ぶことは出来ません。

晋助の成長を見届られぬまま死んでしまった父と母。

それを埋めようと最大限の努力をしてくれた臣下の者たち。

晋助が良き王になると信じ、きっといい時代が来る、と喜びに湧いている国民…。

それらすべての期待を裏切るようなことなど出来ようはずがないのです。

だから、晋助は運命の示した通り、姫を后として連れ帰り、生涯大切に慈しむでしょう。

王としての責務を果たし、国を良い方向に導いてゆくはずです。

その心の奥に銀時への思いを抱いたまま…。



『その運命を受け入れるのには大変な覚悟が求められることでしょうが…どうか忘れないでくださいまし』

『どのような苦難を伴おうとも、それこそが貴方様の運命なのです』

思い返せば、老婆は確かにそう言っていました。



運命の相手とは違う人間に恋をして。

決して叶うことのないその思いを胸に抱き続ける。

“大変な覚悟が求められる”とは、つまりはそういうこと。

それが…俺の運命…なんだ……。

晋助は唐突にそれを理解し…静かに…受け入れる覚悟をしたのでした。



 * * *



咄嗟に蹴り飛ばしてしまった晋助を、銀時は呆然と見やっていましたが、呻いていた晋助が笑い出すと、途端に心配になってきました。

蹴り飛ばされて床に転がった時、頭を打ちつけでもしたのか?

「しん…すけ?なぁおい…大丈夫…か?晋助?晋助ってば!」

呼びかけても、晋助は気がふれたように笑い続けるばかり。尋常な様子ではありません。

打ち所でも悪かったのかと、銀時はいよいよ青ざめました。

このまま正気に戻らない、なんてことはないよな?

まさかまさか、死んじまったりなんか…しないよな?

“死”という言葉が頭をよぎった瞬間、胸の奥がすぅっと冷たくなった感じがしました。

会ったばかりの相手ですが…晋助が死んでしまうことを考えると、苦しくて苦しくて堪りません。





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