短 編 集
□それがアナタの生きる道F
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「お前ってさぁ…頭いいしー、顔カッコイイしー…」
いきなりナニを言い出すんだ、コイツはっ。
そんなふうに言われたら、自分に好意を持ってくれているのかと、あらぬ期待をしてしまうではありませんか!
「それに王族ってのは金持ちなんだろ?さぞかしモテんだろーなー。いいよなぁ」
何のことはない、銀時にとっては探し物をする間の単なるおしゃべりのつもりのようです。
晋助は僅かに落胆しつつも答えました。銀時と話をするのが嫌なわけでは決してなかったので。
「まぁ否定はしねェが……でも、テメェだって…“モテねー”とか、さっきは言ってたが…ありゃ嘘だろ」
確かにキスは下手だったが…これだけの容姿で…モテねーとか…あり得ねェだろ。
「“モテる”って嘘吐くんならともかく、“モテねー”って嘘吐く必要がドコにあんだよ。っつか俺の場合、モテるモテねー以前の問題だし」
「何だよ、それ」
「ほら、髪とか目とか…色ヘンだろ、俺。それで好きとか嫌いとか以前に気味悪ぃとか言われちゃってさー、全っ然ダメ。もー全敗。って…言わせんなよぉ“モテない理由”なんて。ヘコむわ」
銀時の…髪や目…。
晋助には天上のもののように美しいと思えるそれを、そんなふうに言う者がいるなんて…思いもよりませんでした。
「頭オカシイんじゃねーのか?」
「は?」
「テメェに…そーゆーこと言ったヤツだよっ。こんなに…こんなに綺麗なモン…他にねェっつーのに」
「お前ソレ、マジで言ってるっぽいよ?」
「“ぽい”じゃねェっ!俺はすげー…綺麗…だと思うって…最初っから言ってんじゃねーかっ!」
「ははっ、そーだっけな。しっかしあれには驚いたなー。ふつーヒくぜぇ?初対面の人間には特に得体の知れねーもんに見えるみてーだから、俺って」
銀時は何でもないことのように話していますが、晋助にはわかりました。きっと銀時はそういう目で見られることに本当は痛みを感じていたに違いありません。
軽口をたたくような口調が、そのことに対する銀時の慣れと諦めを感じさせ、かえって晋助の胸を打ちます。堪らない気分でした。
俺なら。そんな思いをさせたりしねェのに。
“これまで”のコトはしょうがねェ。でも、“これから先”一緒にいれるのなら。必ず…守ってやるのに。
銀時が、俺の傍であの綺麗な顔で笑ってくれるなら…俺は何だって出来る!なのになんでっ…。
ちっくしょおおぉぉぉ――――っ!!
悔しくて…堪りません。悔しくて。哀しくて。もどかしくて…。涙が出てきそうです。
そんな晋助の心中など知る由もなく、がさがさと抽斗を漁りながら銀時は言葉を続けます。
「なのにお前、全っ然ヒかねーしさぁ。キレーとか言い出すし?変なヤツーって思ったけど…でも…そういう見方する奴もいるんだなーって…そう思えて…なんか…嬉しかった!今まで俺、自分のコト全然好きじゃなかったけどさ…お前がそういうふうに言ってくれて…なんかちょっとマシになったかも。お前、いいヤツだよな!ココのお姫さん、昔はいろいろ大変な目に合ったんだろーけど、これからはきっと幸せになれるよ、お前みたいなヤツが相手ならさ。あ!ほら、あったぜ紙。がんばれよっ!」
ニコニコと紙の束を差し出す銀時。
わかった、と言って受け取る以外、晋助に出来ることはありませんでした。
* * *
棺の前に陣取ってしばらく計算に集中していた晋助がふと顔を上げると、銀時が棺に凭れかかってコックリコックリ船を漕いでいます。
「何でもいいから俺にも手伝わせろよ」と言ってきかないので、刻まれた数字を書き写す際に読み上げてもらったり、予備の紙を探してもらったりしていたのですが、計算する段階に入ってしまえば算術の知識のない銀時に出来ることはありません。
それでも、晋助が見たこともない文字(注:数式)をサラサラと書いていく様子がおもしろいと言って、じっと晋助の手元を見ていたのですが、変わりばえのしない単調な作業です。さすがに飽きて眠気を誘われたのでしょう。
カクンっとひときわ大きく頭が揺れて瞬間的に目を覚ました銀時に晋助は声をかけました。
「おい、寝てていいぞ」
「うんにゃ…だいじょぶ…」
「眠いんだろ?俺も区切りついたらひと眠りすっから…向こうのソファででも横になれよ」
「んーん…いい……」
言い終わらないうちにずるずると摺り下がっていき、すっかり床の上に横たわってしまうとすぅすぅと寝息を立て始めました。
「ったく…言わんこっちゃない」
隣室のソファまで運んでやろうかとも思いましたが、せっかく寝たところを起こしてしまうかもしれません。
晋助は隣からクッションを持ってくると、起こさないように気をつけながら静かに銀時の頭に敷いてやりました。ふかふかした感触をが心地よかったのか、眠っている銀時が幸せそうに微笑みます。
その顔を見ていると、またもや決心が揺らぎそうになってきます。
* * *
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