From dusk till dawn〜日没から夜明けまで〜

□6.【〜回想…忍恋〜side土方】
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雨が上がったあと、“サウナに連れてってやる”と言う銀時の申し出を全力で断って、逃げるように屯所に戻ってきた。

曰く、「オメーが勝手にやったコトなんだから、風邪ひこーが寝込もーがべっつに銀サンのせいじゃねぇけどっ。こんなんで貸しつくったと思われちゃたまんねーからな。あ、カネなら気にしなくていーぞ。福引きで当たったタダ券あっからよォ」

例によって言いまわしは素直じゃねェが、やっぱり俺が濡れたの気にしてやがったのがバレバレだっつの。カワイ過ぎだろテメェ。

しかし…いや、だからこそ、サウナなんて冗談じゃねェ!

イヤイヤ、正直行きたかった。

当然だろう?惚れた相手の肌も露(あらわ)な姿に興味がねぇオトコなんざ居るわけがねェ。

だが、自分の気持ちを自覚しちまった今、全裸に近い恰好で密室にアイツと二人、なんて……ヤバすぎる。

普通にしていられるとは到底思えねェ。

熱で火照って上気した肌を汗が伝うさまなんぞ見せられてみろ!

理性がもつワケが……いや、でもチョット見たかった気も…いやいや、やっぱりダメだっ!速攻バレるわァっ!

……暑さでぼぅっとした顔。潤んだ瞳。

水分を求めて半開きになる唇。荒くなる息。

白い肌がその時だけはほんのりと朱を帯びて…。

『ひじかた……俺もぉ…ダ…メ……出…る…』

………って、ナニ考えてんだぁっ、俺ェっ!

やっべぇ。想像だけでむちゃくちゃクる。

慌てて打ち消そうとしたが、一度浮かんじまったモンは容易に消えてはくれず。

実際に見たわけでもねェその姿に心乱される。

何だよコレ。っつーか、どんだけだよ、俺!

チクショー、アイツがサウナとか余計なこと言いやがるから。どーしてくれんだよォ、コレェっ!

っつかアイツ、あのあと一人で行ってねェだろーなァ?

“タダ券がある”とかぬかしてやがったし、行ってる可能性が高いか…?あんだけ冷えた後だしな。

貸切じゃねーんだ、当然他の客もいる…よな?

ってコトはなにか?そんな姿を他のヤローの前に晒して……だあぁぁっ!耐えられねェェっ!!



―――トゥルルルル…トゥルルルル…トゥルルルル…

チッ、居やがらねェのか?

―――トゥルルルル…トゥルルルル…トゥルルルル…

やっぱ行ってんのかよー。

―――トゥルルルル…トゥルッ

「はぁーい、万事屋ぁックシュッ!…あー失礼。万事屋でーす。どちらさ…」

―――ピッ…



居ても立ってもいられなくなって結局俺がしたことは、万事屋に電話をかけること、だった。

いま電話に出たってことは、時間的に考えて、あのあとすぐ自宅に戻ったと考えて間違いないだろう。

ナニが哀しくてこの俺が無言電話なんぞ…と情けなくなりつつも、それが確認できてほっと胸を撫で下ろす。

が、それも束の間。

一種の興奮状態から醒めてみると、バカバカしくて泣けてくる。

今行ってねェからって、明日行かねェとも限らねェ。

他のヤツに肌晒すのはイヤだと。いくら俺が思ったところでそんなのァ無駄なことだ。

サウナに限ったことじゃねェ。

たとえアイツが誰と過ごそうと。たとえアイツが誰を想おうと。そして、誰と身体を重ねようと。俺にそれを止める術は無ェ。

アイツは俺のものじゃねェんだから。

いくらちょくちょく顔を合わせるといっても、そんなのはお互いの生活のほんの一部に過ぎない。

アイツには俺の知らない生活があって…俺にそこに立ち入る権利はない。

俺の知らないところで…他の人間と言葉を交わして、他の人間と行動をともにして……当たり前のことだ。

なのに、その“当たり前のこと”を受け入れたくないと思っちまってる自分がいる。

俺のことだけ見てほしい。

俺だけに笑いかけて、俺だけに触れて、俺だけを……愛してほしい。

そしてアイツのすべてを俺だけのものにできたら…。

無茶な望みだ。叶うはずのない…。

わかっていても。想いは止まらない。



銀時…。銀時…。

俺はもう、お前でいっぱいだよ。

俺がこんなにもお前のことだけ想っていても。

お前は俺のことなんてこれっぽっちも考えてやしねェんだろうな。

誰か好きな相手はいるのか?

そいつのことでも考えてるのか?

今は決まった相手はいねェようだが…。

前に付き合ってたやつはいたのか?

いたとすりゃ、どんな相手で…どんなとこに惚れてたんだ?

銀時…。銀時…。

今ごろお前は…何を思ってる…。



 * * *





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