From dusk till dawn〜日没から夜明けまで〜

□8.【〜ホテルにて〜 side 土方】
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薄暗い部屋。目の前の布団には銀時が横たわっている。穏かな寝息を立てて。

ここは、歓楽街からそう遠くない場所に林立する出会い茶屋の一室。

結局こんなところに連れてきちまった。自分の欲に負けて。

こんなやり方がどんなに卑怯か、誰に言われるまでもなく、よくわかってる。が…。

“お前を抱ける”

その誘惑に、どうしても、抗えなかった。そう、どうしても…。

情けねェ男だよ、俺ァ。自分はもっとマシな男だと思っていたが…どうやら間違いだったらしい。



寝顔をつくづくと眺める。こんなに間近で、こんなに凝視したのは初めてだ。

綺麗だ……と、改めて思う。

髪と同じ銀色で一見目立たないが、こうして伏せられているのを見ると、睫毛が驚くほど長い。

そして、ろくに手入れをしているとも思えないのに、きめ細かく白い肌。紅い唇…。

ゴクリと唾を飲み込む。とても男とは思えねェ。

が、だから惹かれるってワケじゃあねェ。

そんなんだったら女を抱けばいいだけのこと。むしろ話は簡単だ。

肌の白い女なんていくらでもいた。顔のキレイな女だって。

それでもこれほどまでに惹きつけられることなんて、なかった。なのにどうしてコイツにはこんなに……

つっと唇を指で辿ると、ほんの少し開いて…吐息が洩れる。

堪らなくなって口づけた。



 * * *



あとは夢中だった。

頭の芯が痺れるような感覚。キスでこんな……初めてだ。

もっと、ホシイ。もっと深く。もっと奥まで。

欲するままに貪ると、奥底から突き上げてくる思い。

あぁ銀時。好きだ。好きだ好きだ好きだ。それしか表しようがない。

なんで俺をこんな気持ちにさせるんだ?お前だけが……。



「…んぁっ…はっ…んんっ」

耳を弄ると、銀時の口から声が洩れた。起きちまったかと思ったが…そうではないらしい。

「…あっ…ぁ……ふ…ぁあっ…」

銀時…気持ちイイのか?俺の愛撫に…感じてるのか?

思わず…といった風情であがる声にぞくぞくと快感が押し寄せる。

もっと喘がせたい衝動に駆られ、開いた襟から胸に指を滑らせて。見つけた突起を捏ねれば、更にあがる、声。

「ああっ…あっ…ん…あぁっ……」

初めて鼓膜を震わせる、銀時の甘い啼き声。

俺があげさせている、声だ。他の誰でもない、今は俺の手で感じて。それでこんなふうに声を…っ!

そう思うとどうしようもなく気持ちが昂ぶる。制御しきれないほどの熱が身の内に渦巻いて。身体が燃えるように熱い。

吐息とともに零れる声が愛しくて。掬い取るかのように、もう一度口づける。

甘い…唇。柔らかくて熱い…夢にまでみた、銀時の唇。そこに今俺は実際に触れてる…あぁもう…堪んねェ。

もっと深く味わおうとしたその時。

意識がないと思っていた銀時の手が俺の頭を掴んだ。

そのまま持ち上げられ、銀時の腕の分だけ距離を空けた状態で下から真っ直ぐ見据えられる。

コイツ…起きて………っ!



 * * *



覚悟を決めたつもりだった。が…。次に発せられるだろう言葉を、俺は怖れずにはいられなかった。

酔いつぶれた銀時を、こんなところに連れ込んで。

休ませるとか介抱するとかならまだしも、意識が無ェのにつけ込んで本人の望んでもいねェ行為を強要してたんだ。

どれだけ非難されても文句は言えねェのはわかってる。

それでも…たまらなく怖かった。銀時の口から俺を拒絶する言葉を聞くのが。

しかし。

どんなに怖かろうが、甘んじて受け止めるしかない。

たとえそれが、どんな罵りの言葉でも。どんな蔑みの言葉でも。俺を…拒絶する言葉でも……。

実際にはそう長い時間でもなかったのだろうが…俺には時が止まったように思えるほどの“間”だった。

次に銀時が口を開けば。その言葉は完膚なきまでに俺を打ちのめすだろう。

そして、今触れているこの温もりが、その瞬間、もう手の届かないものになる。永遠に触れることを赦されないものに…。

銀時に…。誰より愛しい銀時に軽蔑され…“最低の男だ”と言われるのだろうか?“二度と関わるな”と?もうお前なしの世界なんて考えられないのに。

それは…想像を絶する恐怖、だった。あたかも世界の崩壊を告げるような…。いや、“世界の崩壊”の方がまだマシだ。その時はきっとお前も一緒なんだろうから…。

もう、すぐそこまで迫っている。が、まだ到来してはいない“その瞬間”を、既に体験したかのような錯覚に陥り、底のない絶望に呑み込まれていく感覚に眩暈を起こしそうになる。

そして…長く感じたその“間”が終わり、銀時が口を開く。

俺は、思わずギュッと目を瞑った。



 * * *





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