From dusk till dawn〜日没から夜明けまで〜

□2.【〜バーにて〜side銀時】
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その日俺が居たのは、いつもの居酒屋…に比べるとだいぶ値の張る、いわゆる「しょっとばー」とかいう類の店だ。

長谷川さんの古馴染みの店で、今日はどうしてもそこで飲みたいって言うもんだから行ったんだが、その長谷川さんは、急に人手が必要になったとか何とか携帯で呼び出されて、ソッコーで仕事に行っちまった。

それなら俺もいつもの店に移動しようかとも思ったが、珍しくパチンコで大勝ちしてフトコロもわりと暖かかったし、たまにはこういう洒落たとこで飲むのもいーじゃん?なんて思って、結局ひとりになってからもその店で飲んでたんだよな。

長谷川さんの馴染みだっていうマスターは、気さくで親しみやすいオヤジだったし、名前は知らないが出てくる酒は甘くてめちゃくちゃ美味いしで、けっこう飲んだ…気がする。

いや、けっこうっつーか、そーとー?「かくてる」なんざ普段飲みつけてないせいか、酔いがまわるのも早い。

グラスの中の綺麗なピンクをぼんやりと見つめ、心地好い酩酊に身をまかせていると、入り口に取り付けられたベルがチリリンと可愛らしい音を立てて来客を知らせた。

何気なくそちらに顔を向けると、なんだか見たことのあるような顔が……瞳孔ガン開きでこっちを凝視している。



* * *



「あーれー?多串くんじゃねーの。久しぶりー」

「………なんでテメェがここに居やがる?」

「あー…たまたま?多串くんはー?」

「あ?俺は…って、誰が多串だっ!俺は土方だっつってるだろーがっ」

「そーだっけ?まぁ何でもいいだろ」

「何でもいいわけあるかァァッ」

「やだやだ。せっかくイイ雰囲気の店なのに、うっさいよォ多串くん。他のお客さんにも迷惑ですぅ!とりあえず座ればぁ?」

カウンター席に座っていた俺が隣のイスを示せば、小声で何やらぶつぶつ言いながらもおとなしく腰を下ろす。

あっれー?てっきり「テメーの隣なんざごめんこうむるっ」とかなんとかまた騒ぐだろうと思ってたのに…珍しい。

席に着くやいなや煙草に火を点け、酒を注文する(酒より煙草が先かよっ)。

メニューも見ずに、長ったらしいカタカナ名前をすらすら告げてるとこを見ると、こーいった店に来慣れているのかもしれない。

別に約束して飲んだりしてたわけじゃねーが、今まで鉢合わせすんのはたいてい居酒屋とか屋台とかだったし、土方っつーとなんとなく日本酒ってイメージがあるから意外な気もするが…カウンターに片肘をついて紫煙を燻らす姿は、悔しいがサマになっている、と言えなくもない。

用意された酒をひと口飲んだところで2本目の煙草に火を点け、一頻り喫ったあと、向こうから話しかけてきた。これまた珍しい。

「どういう風の吹きまわしだ?他の場所ならともかく、この店でテメーと鉢合わせするなんざ思ってもみなかったぜ。万年金欠のクセに…カネはあんのかァ?」

「失敬なっ!飲み代ぐらいちゃあんと持ってますよぉ、だ!今日は大勝ちだったんですぅ。バクチの女神サマがもー俺にベタ惚れってカンジ?引き上げようと思っても“いや〜ん銀さんまだ帰らないでぇ”って全然離してくんなくて困ったぐらいなんだからっ!なんなら多串くんの分も払ってさしあげましょうかぁっ?」

「けっこうだ。テメェにオゴられるほど落ちぶれちゃいねェ。ほどんど人間失格だろソレ。あと俺は多串じゃねェ!土方だ!」

「ますます失敬なっ!しかも意外と細かいことに拘るタイプなのね…」

「細かくねェっ!何度言っても覚えねェテメーに問題があんだろーがっ」

「だって銀さん、ヤローの名前覚えんの苦手だし?いーじゃん今さら。もうキミ“多串くん”でインプットされちゃったしー」

「んなド適当な名前でインプットすんじゃねぇっ!」

「メンドくせぇなー。だったらどんな名前ならいいってんだよォ。磯村くんとかぁ?」

「どんなもなにも、“土方”だっつってんだろーがっ!だいたい何なんだよその“多串”だの“磯村”だのってなァ!」

「だいたいそれで通用すんだよ。便利だろ?ってかキミさぁ、そぉんなに銀さんにナマエ呼んでほしーわけぇ?」

「……っ!別にっ。ンなこと言ってねーだろ」

「わぁーった、わぁーった。んなに呼んでほしいんなら呼んでやるから。ひーじーかーたーくーん!」

「そのイントネーション、ヤメロ」

「んだよ、オメーの言う通りに呼んでやってんのに。注文多いなー多串くんは」

「戻ってんじゃねーかっ!バカだろ、テメェ」

「バカって言うほうがバカぁっ」

『あのぅ……』



 * * *





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