From dusk till dawn〜日没から夜明けまで〜

□4.【〜回想…前兆〜side土方】
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どうしてか、なんてわからねェ。そんなのこっちが教えてほしいぐらいだ。

だが、俺はコイツに惚れてる。もうどーしようもねェほど……。

相手が男、しかもよりによってコイツってことに、ずいぶんと戸惑ったが…気付いちまえばもう止められなかった。

愛している、と。愛されたい、と。思う心を…。



* * *



初めは、視界に入ると目で追っちまう程度だった。

いろいろとロクでもねェ因縁ばかりある相手だったから、気に喰わなくて睨んじまうのが条件反射になっちまってんだ、と、そう思ってたんだ。

その日も、巡回の途中、昼メシにしようと入ったファミレスで、目に飛び込んできた銀髪。

まったく目立つ頭だ。見付けたくもねェってのに目についちまう。だいたい何でこうも行く先々で遭遇せにゃならんのか。

苦々しく思いつつも、気付いてしまえばもう目が離せない。

例によってパフェを食べていたらしく、長いスプーンを口に運んでは蕩けそうに顔を綻ばせている。

好き勝手にハネた銀の髪が窓から入り込む陽光に煌いて綺麗だ。

その髪に負けず劣らず光を弾く白すぎるほど白い肌も、その中にあってそこだけ血を溶かしたように紅い瞳と唇も…。

また無意識に目で追っちまってたらしい。

「土方さん。なーに旦那に見蕩れちまってんです?まぁ気持ちはわからねぇでもありやせんが…。まったくキレーなお人でさぁ。あれで“モテねーモテねー”言ってんのが不思議ですぜ。まぁ俺の見たところ、ご本人が気付いてねぇだけで、実際旦那にイカレてる奴ァ両手両足じゃ足りねーほどってカンジですがねィ」

しまった。コイツがいるのを忘れてた。

今思えば、総悟はいつものように適当なネタで俺をからかおうと思っただけだったんだろう。

だが、その言葉に俺は動揺しちまうのを止められなかった。

「な、何言ってやがんだ、てめっ…」

“見蕩れて…”って、俺は見蕩れてなんかねェっ。

“綺麗”?アイツがか?そんなワケあるかっ。そんなワケ……。

ドクンっと身体が脈打つ。綺麗だ、と思って見ていなかったか?俺…。

そして一般的にそういう気持ちで目が離せなくなることを“見蕩れる”って言わねェか?

「あーれー?土方さん。顔が赤いですぜィ。まさかアンタ、マジで旦那に……とか?」

「ばか言うな。あるワケねェだろ。なんで俺が…」

今度は努めて平常通り、鼻で笑う風情でそう返したのだが、カンのいいコイツのことだ。先刻見せたほんの一瞬の動揺を見逃してはいなかったのだろう。

何事かを思いついたように俺にニヤっとドS丸出しの笑顔を向けると、次の瞬間見事に一見無邪気にしか見えない表情をつくり、アイツのテーブルに近づいて、話しかけた。

「万事屋の旦那じゃありやせんか。こんなところで豪勢にパフェ三昧たァ、今日は調子が良かったと見えますねィ?」

「おっ、そういうキミは総一郎くん!よくぞ聞いてくれました!もー大勝ちよォ、とか言えるモンなら言いてぇけどよォ…まァそこそこってトコだなァ。いやいや、今日のところは勘弁してやった、ってカンジ?そっちは?またサボりかァ?」

「そうしたいのはヤマヤマなんですがねィ。土方のヤローに張りつかれて、面白くもねェ巡回でさァ。今は単に昼休憩ってヤツで。それより旦那、クリームついてますぜィ」

「んっ、どこに?」

そう言って、唇のまわりを適当に舐め回す。

唇よりほんの少し濃い色の舌が白い肌の上を動き回る様子に、何故だか背中がゾクッとする。

「あはは、それじゃ全然届いてませんって。俺が取ってあげやす。ちょっと上向いてくだせぇ」

ちらっと俺にイミありげな視線を投げかけた後、頤(おとがい)に手をかけて顔を上向かせ、そこにすっと顔を近づける総悟。

オイちょっと待てェェ!それじゃまるでキスするみてぇな……

片手にパフェ、もう片方にスプーンを持って手の塞がった状態の万事屋は、総悟の動きに特に逆らうでもなく為すがままだ。

距離が近づいてゆく。

唇を重ねる二人が頭に浮かんで…それが現実になる一瞬前、カッとなって乱暴に総悟の肩を掴んだ。

「オイ総悟っ、テメェっ…」

引き戻そうとしたのだがビクともせず(見かけにそぐわずコイツは怪力だ)、そのまま……ウソだろっ!

「ぅああああぁぁっっ!!」

肩を掴む手に渾身の力を込めたが、歯が立たない。

“止められない”“キスしちまう”

そう思った瞬間、目の前が真っ白になって、とんでもない声が咽喉の奥から飛び出した。

とても自分が出した声とは思えない、断末魔のような叫び声。

その声に驚いて万事屋が俺を注視した隙に、総悟がペロリとその頬を舐めた。

「ぇええっ……?もーいったいなんなのキミたちわっ?」

「何って…俺はほっぺについたクリームをとってあげただけでさァ。ハイ、キレイになりましたぜィ」

「じゃあ、そっちのヒトは?なんで急に叫んでんの?」

「さぁ…でも旦那が気にするようなことは何もありやせんよ。きっとマヨの摂り過ぎで頭オカシクなってんでさァ」

「って総一郎くん、キミもじゅうぶんオカシイよ?恋人でもねぇのにこんなやり方するかフツー?ってかよくこんなオッサンの顔舐めれるよね。銀サンちょっとビックリしたよ?」

「まぁ確かにオッサンですけどねィ、でも旦那は可愛いんで舐めるぐらいなんでもねぇでさァ。なんなら違うトコロも舐めてあげやしょうか?」

「楽しい?ねぇオッサンからかって楽しい?ってか可愛いとかイラナイから“オッサン”を否定してほしかった…」

「何言ってんでさァ、自分で言ったんじゃねぇですかィ」

「自分で言ったことでもヒトには否定してほしいもんなのっ!ティーンエイジャーにはわっかんねーだろーけどっ」

「そーですねィ、俺ァピチピチのティーンエイジャーなんで、そんな心理は皆目わかりやせんねィ」

「ちくしょー、てめぇだってすぐだっつの!ホント二十歳(はたち)越えたらあっという間だからっ!すぐベンに追いかけられる日が来んだからなっ」

「ハハハ……。ところで土方さん。いいかげん手を離しちゃもらえませんかねィ。痛ぇんですが」

振り返ってそう言った総悟は楽しくて楽しくてたまらないという目をしていた。

何がそんなに楽しいかって?そんなのァ聞かなくてもわかる。もちろん俺をいたぶるのが、だ。

自分の行動を取り繕う余裕もなかった。俺はくるりと背を向けると無言のまま出口に向かおうとした。

「あれ?土方さぁん、ドコに行くんで?メシ食わねぇんですかィ?」

「きゅ、急用を思い出した。総悟、メシはいいが、済んだら巡回に戻れよ」

背中を向けたままやっとそれだけ言って歩き出す。

くっくっくっと噛み殺した総悟の笑い声が背後から聞こえたが、今は構っちゃいられない。

そのまま振り返らずに出口に向かった。



* * *





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