From dusk till dawn〜日没から夜明けまで〜
□5.【〜回想…自覚〜side土方】
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あの日から俺はおかしい。
いや。思い返せばもっと前から始まっていたのかもしれない。
何をしていてもアイツの顔がちらつく。
メシやフロなんかのプライベートな時間は言うに及ばず。仕事中だろうとおかまいなしに俺を侵食する白い残像。
書類仕事にミスが増えた。捕り物などの現場でなんとかミスせずに済んでいるのが救いだが、この状態が続けばそちらにも影響してしまわないとも限らない。
巡回に出れば、視界にアイツの姿がないか、つい目を走らせちまう。
今までも、全くの偶然にもかかわらず遭遇率はかなり高かったが…こちらが探してしまっているせいか更に頻度が上がった。
もちろん、会ったからといって何があるわけでもない。どうでもいいような憎まれ口をたたき合って別々の方向に歩き出す、ただその繰り返し。
だが、そのほんの僅かな関わりを切望して、街に出れば姿を、気配を、探してしまうのを止められない。
いったいどうしちまったんだ、俺ァ。
* * *
その日俺は、非番にもかかわらずかぶき町界隈をうろついていた。
別に非番の日をどう過ごそうと自由であり誰に憚ることもないはずなのだが、休息するでも他の用事を片付けるでもなくこんなところをうろうろしている理由が、自分では認めたくない、ある願望に基づくものだということに薄々気付いているだけに、なんとなく後ろめたさが拭えない。
仕事もなくひとり部屋に居れば、いよいよアイツの面影に脳内を埋め尽くされ、どうにかなってしまいそうだった。
それで特に行く当てもないまま外に出たら、自然と足がかぶき町に向かっていた。我ながら…救えねェ。
会って…会ってどうしようというのだ。どうせまたいつものようにくだらないやり取りをして…それだけだ。
そう思いはしても、やっぱり探してしまっている。
視界のどこかにあの銀色が見えないか、いつも着ている白地に波模様の着流しが見えないか、と。
だがその日は、歩いても歩いても出くわすことはなかった。
いつも一服に使う公園まで来たところで、降水確率30%の空から、ポツポツと雨が落ちてきた。
ぱたぱたっと何粒か体に当たるのを感じた次の瞬間、急にどっと勢いを増す。
当然カサの持ち合わせなどない。辺りを見回すと、隅にある屋根付きのベンチが目にとまり、ひとまずそこへ駆け込む。
雨に気付いてからここに入るまで、ほんの僅かな時間に過ぎなかったはずだが、それでもだいぶ濡れてしまった。
ひどい降りだ。遠くでゴロゴロと春雷が鳴り響く。
くっ、ナニやってんだ俺ァ。まったくザマァねェな。
濡れた体を見下ろしていたら、思わず自嘲の笑みが洩れた。
カオ合わせることがあるとすりゃあ、それはいつも“偶然”。
あるかどうかもわからねェその“偶然”に期待して。
せっかくの休日に用もないのにわざわざ出掛けてきて、さんざん歩き回って…なんて滑稽なんだろうな。
オマケに雨まで降ってきやがって…。
それでも。
それでも顔が見たかった。どんなくだらない会話でもいいから言葉を交わしたかった。声が聞きたかった。
そうだ、俺ァ……。
――――アイツが……好きなんだ――――――――
仕事も疎かになりかねないほど、四六時中アイツのことを考えちまうのはなんでなのか。
街を歩けば姿を探し求めちまうのはなんでなのか。
答えなんて、最初っからひとつしかなかったんだ。
それに薄々感づいていながら、“違う、そうじゃねェ”と必死で違う答えを当て嵌めようともがいていた。
心の奥底に渦巻くその感情の正体から、必死で目を逸らそうとしていた。
認めるのが怖かった。認めれば今までの自分が何もかも変わっちまうような気がして。
だが、もう誤魔化しようがない。日増しに大きく、強くなる思い。アイツを求める……
「銀時…………」
初めて名前を口にした。
綺麗な、名前だ。
まるでアイツ自身みたいな…綺麗な、綺麗な…。
「俺は、お前が……」
そのまま言葉を続ける。
今までその存在を認められずに封じ込められていた思いを…ようやく出口を与えられたその感情を、もう一度確かめるかのように。
「好きだ…………」
覚悟とともに。
* * *
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