140字とか小ネタとか

□ここでキスして
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【ここでキスして】



―――えー?明日もダメなんーっ!!??桜散っちゃうじゃんんーっ!

「しょーがねーだろ。仕事なんだからよー…」

―――土方のバカ!もーいーよ!友だちと行くからっ!

「ちょっと待ておい、友だちって誰だよ!まさか…」



言葉の途中で電話を切られた。

友だち?「友だち」じゃねーだろ!少なくとも向こうは絶ってーそのつもりじゃねーぞ気付け馬鹿!

すぐさまかけ直したが繋がらない。携帯の電源切りやがったな。マズい。これは…そうとうキレてるパターンだ。もう既に三回流れてるからなァ…。

俺だって約束は守りたいさ!でも…しょうがねーだろ?誰が持ち込んだんだか知らねーが今時期んなって署内でインフルエンザが大流行!欠勤者が相次ぎ満足動けるのは今や常時の1/3程度だ。

元々休暇申請してあったとはいえ…この状態で体壊してもいねぇ俺が「休ませてください」て!言えるワケねェじゃねーかっ!



 * * *



雨でも降ってくんねーもんか…という甚だ他力本願な祈りも虚しく翌日は快晴・微風の花見日和。

出勤の支度をしながら何度かかけてみたけれどやっぱり携帯は繋がらなかった。



「トシ、お前体調大丈夫か?なんだか顔色が悪いぞ?」

署長の近藤さんが気遣ってくれる。

「え…?ええ、別に…大丈夫っすよ。ちょっと…疲れが溜まってるだけっす」

「ここ半月ろくに休み取れてねーもんな…。悪いなぁ…欠勤者の穴埋めでお前には随分無理させちまって…」

「いえ…」

それは近藤さんも他の皆も同じなのだ。俺だけ弱音を吐くわけにもいかない。

だがこの日は比較的早くあがれた。連日フル稼働している出勤組の体力もそろそろ限界にきていることを察した近藤さんが無理にも仕事を打ち切らせ全員を帰らせたのだ。

時刻は午後7時。夜桜なら何とかまだイケそうだ。



近藤さんに感謝しつつ速攻で銀時の携帯に電話をかける。しかしコール音は鳴るが応答はナシ。

迷った末自宅にかけてみたら昼過ぎに出かけたきりまだ帰宅していないとのことだった。

昨日電話で言ってた通り…「友だち」と行ったんだろうな、やっぱし。くそっ!

なァにが「友だち」だよ!銀時を取り巻く連中…殊に高校に上がってからつるみ始めた奴らに関して、俺的にはかなりの疑惑を抱いている。特に「タカスギ」って奴と「タツマ」って奴は要注意だ。

面識はないが銀時の口から度々聞かされるそいつらの動向は単なるクラスメイトとしての域を逸脱しているように思えてならない。

繰り返されるプレゼント攻撃に甘味オゴリ攻撃…それは友人に対する好意の表れ(銀時はそう信じて疑わないが)というより狙った女をオトそうとする男の手管そのものだ。

間違いない、奴らは銀時を狙っている。刑事の勘…そして男としての危機察知本能が俺にそう告げている。



奴らの名前を思い出したら途端にイヤーな予感が這い上がってきた。とはいえ、これは昨日今日始まったものではないのだが…。

一緒に行くはずだった近場の花見スポットに急行し、人混みをよけて歩きながら銀色の頭を探したが、一通り回っても見つからない。

落ち着け。高校生の花見なんて酒盛りをするでもなし…せいぜい出店をひやかして食べ歩きをする程度だろう。だったらそう長居するわけもないし、早々にカラオケかゲーセンにでも移動したのかもしれない…。

そうは思ったものの、どうにも嫌な予感が消えない。とりあえず一服してからもうひと回りしてみるか、と奥まった人気のなさそうな方へと足を向けた。

探せばどこかに灰皿ぐらいあったかもしれないがあいにく視界内には見当たらなかったし、携帯灰皿は常時持ち歩いているので人目につかない場所で喫っちまった方が早いと思ったからだ。

最近は指定された喫煙場所以外での喫煙行為に世間の目が厳しい。木の陰に隠れるようにして煙草を喫いながら見るともなくぼんやりと池の方を眺めていたら、視界の端に映ったベンチで何やら揉み合う人の影が。

カップルの痴話喧嘩か…?それなら勝手にやってくれという感じだが…この時期、花見の宴で酔った女に無理矢理不逞を働こうという輩が多いのも事実だ。もしレイプ紛いの行為だとしたら警察組織の一員として見過ごしてはおけない。

しかしこの段階では判別がつけられず、それとなく様子を窺っていると。

『やっ…!やめてよ、ヤダってば離してっ!』

媚を含んだ見せ掛けの拒絶ではない、切羽詰った様子の声が聞こえ…同時に一瞬身体が凍りついた。銀時の声に似ている…ような気がしたから。でもまさか……そんな…





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