140字とか小ネタとか

□ここでキスして
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「おいっ!そこで何やってるッ!」

思わず歩み寄って声をかけると片方の人影が振り向いた。もう一人はそいつの影になっていて見えない。

「何だよオッサン。引っ込んでろよ」

印象としてはかなり若い。二十歳そこそこ…下手すると未成年。

「そうはいかねぇ。どう見ても合意の上には見えねぇからな」

「合意だよ。コイツから誘ってきたんだ」

「黙れ。犯罪者は皆そう言うんだよ」

「うるせェ!邪魔しやがるとブッ殺すぞ!」

「上等だ、やってみろよ。俺ァ警察の人間だ。レイプ未遂に殺人未遂もつけてしょっぴいてやるぜ?」

「警察だあ…?」

不愉快そうにチッと舌打ちをする。

その時。男の意識が自分から離れたことを悟ったのか、もう一人がベンチの陰からふらふらと姿を現した。その人物を見て俺は目を瞠った。

「ひじかた…?やっぱり土方だっ!ぅわ〜ん、ひじかたぁーっ!」

助けを求めるように俺の方に向かってくる。が、どうも様子がおかしい。足に力が入らないようで、途中でよろけてすっ転び、俺は慌てて駆け寄って助け起こした。

すると微かにアルコールの匂いが…!

「銀時っ!てめぇどういうつもりだッ!未成年のくせに酒なんか飲みやがってこの馬鹿やろう!」

「土方…なんでぇっ?飲んでないよ?酒なんか……俺が飲んでたのはコーラだもんっ!高杉が買ってくれたやつっ!」

視線を巡らすと、確かにベンチの足元にストローが刺さったコーラのカップが転がっている。なるほど…そういうことかよ……。

クソガキが!舐めたマネしてくれやがって……!

銀時を手近な木にもたせかけ、立ち上がってゆっくりとそいつに近づく。

「…高杉、つったか?テメェが酒混ぜやがったな?酔わせて無理強いしようたァ…随分汚ェ手を使うじゃねーか」

低く言ってぐっと睨みつけるとそいつも睨み返してきた。

「なるほど……テメェが"土方"ってワケか…。今頃のこのこ出てきてナイト気取りかよ…フン!いい気になってられんのも今のうちだぜオッサン!いずれ銀時は俺がもらう!」

対抗心剥き出しのギラギラした目。ああ……やっぱり…そーゆーコトなわけね?あまりにも予想通りの展開すぎて…溜め息しか出てこねぇよ……。

煙草を取り出して火を点ける。ふぅーっと煙を吐き出して。噛んで含めるように言って聞かせる。

「そう思うのは勝手だがな……未成年の飲酒は立派な犯罪だ。テメェがどうなろうと知ったこっちゃねぇが、銀時を巻き込むんじゃねぇ!いいか?今日のところは見逃してやるが…今度銀時に法を犯させるようなマネさせやがったら…そん時は許さねぇ。それだけは肝に命じておけよ?クソガキ」

そいつは一瞬目を見開いて。フッと呆れたような笑いを洩らした。

「怒るとこ違くねーか?オッサン。普通は“手ェ出すな”とか言うとこなんじゃねーの?」

「友だちヅラしたオオカミにゃあ十分気をつけるよう、警戒心の足りねぇウチの仔ヤギちゃんによォく言っとくさ」

「へぇ?そんなんであいつのユルさがどーにかなるとも思えねぇけど?」

「………かもな」

「アンタは…それでいいわけ…?」

「…………さぁ…どーだろな……」



俺のことだけ見てろ、と。

言いたいさ。

でも…あいつは若いんだ。

自分の意思で選び取っていける、無数の未来がある。

少なくとも俺はそうやって自分の意志で自分の往く道を決めてきた。

俺が先に歩いているからといって…あいつが自分の意思を曲げてその後をついてこなきゃなんねぇ道理なんざ、これっぽっちも無ェ。

あいつが自分の意思でそれを選んでくれるというのなら。もう離しゃしねぇが。

その結論を出すには…あいつはまだまだ若すぎる…。



“それでいいのか?”という高杉の問いに触発されて、普段から漠然と抱いていたそんな思考がふと脳裏に浮かんだが、こんなガキに本音を晒す気は毛頭なく…言葉を濁した。

が…まるで俺の心理を読んだかのようにそいつはぷっと吹き出して言った。

「真面目だなーオッサン。そんなんじゃあ…やっぱり遠からず銀時は俺のモンだな」

「言ってろクソガキ。……簡単に渡す気はねーが…とにかくやるんなら正攻法でな。あいつが泥かぶるような…あるいはのちのち後悔することになるようなやり口だけはしてくれるなよ?いいな?」

「わァーったよォ、しつけェなァ!」

芝生に落ちたカバンを拾って肩に担ぎ、そいつはくるりと背を向けた。

「おい、オメーも酒入ってんだろ?気ィつけて帰れよ」

「はっ!どこまでも寛容なこって!あァそーだ。あいつから誘ったってェのはホントなんだぜー?“キスしてみたい”って…」

「はァ?」

「“コイビトが子ども扱いしてキスもしてくんねぇ”ってブンむくれてっからよォ…だったらそのヘタレ野郎の代わりに俺が…って思ったのサ。銀時のファーストキスは俺がいただいたぜー!」

ざまァみやがれー、と高笑いをして高杉はその場を去っていった。





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