From dusk till dawn〜日没から夜明けまで〜
□9.【〜ホテルにて〜 side 銀時】
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あ……あー………。
それを察して、熱に浮かされたみたいに昂ぶっていた気持ちが急速に引き戻される。
そうだよなァ。男なら、オンナの下着の中にあるモンには興奮するだろうが、自分に付いてんのと同じモン目(ま)の当たりにすりゃあ、醒めるわな。
自分のモンでもグロいと思うのに、ヒトのなんて尚更だろ。そんな相手に散々キスだのなんだのしてたと思やァ…そりゃ固まるわ。
あ…れ…?…ナニを舞い上がってたんだァ?俺……。
土方くんが俺を好きって…きっとそれは本当なんだろう。
でもそれはそーゆー「好き」じゃなかったってコトだよっ、うんっ。
だ、だよなー。ぎ、銀さん、最初から、そーなんじゃないかなーって、お、思ってたしね!
全っ然オッケーだよっ、うん。むしろココで目ェ醒めてくれて良かったーってカンジ??
誰に対する言い訳のつもりか、頭の中でそんな文章組み立てて……意思とは無関係に湧きあがる感情を、奥歯を噛みしめてやり過ごそうと試みる。
身体事情的には動きたくなかった…ってかダルくてカラダ動かすの辛かったけど……これ以上土方くんの前にこのカラダ晒してたくない。
力の入らない身体をなんとか動かして、のろのろと上半身を起こす。
そうすると、土方くんが呆然と俺の股間を凝視してるのが厭でも目に入る。
ショック受けたんだろうなー。可哀そーに。
ドコをどう間違ってそんなスイッチ入っちまったのか知らねーけど。コイツ、本っ気で俺のコト好きだって思って…いや、思い“込んで”たみてーだし?
“気持ち”の上では掛け値ナシにそう思い込んでたんだろーが、実際“カラダ”見て…ンな思い込みもぶっ飛んだ…ってワケなんだろーなー。銀さん、どっからどう見ても“オトコ”だし?
「好きだ」と。何度も繰り返した声が蘇る。
嘘なんかカケラも含まない、真摯な声だった。
まっすぐ…胸に届く………。
少なくともさっきまでのコイツは、それを真実だと信じて疑わなかったんだろうと思う。だって…そうでなければあんなふうに胸に響いたりしないはず。
嘘なんかじゃなかったんだよな?ただちょっと……勘違いだっただけ…で……。
胸の奥がちくりと痛んだ気がした。
あれ?もしかして俺、ちょっと残念とか思ってた…り…?
いや、違うって!そーじゃねェけどっ!
「好きだ」と繰り返し囁いたコイツの声が、あんまり真っ直ぐだったから。
その気持ちを込めたようなコイツのキスが、あんまり優しかったから。
なんかそれを心地いいなーなんて思っちまったんじゃねーか!
そんだけ!別に…他意なし!
ったく…あんな声でスキダスキダ言うんじゃねーよっ!
なんかコッチまで妙な気分になったろーがぁっ!
* * *
土方は…俺を嫌ってるんだと思ってた。
でもそれは…俺が今までさんざん受けてきて、別に馴染みたくもねェのに馴染んじまった"嫌われ方"とは全然違ってて…。
"嫌われ方"にイイもワルイもあるかっ!って言われちまえばそれまでだけど。何ていうか…エラク健全な感じがしたんだ。
コイツは俺のことが気に喰わねェ。
でもそれは、単純にコイツが俺っていう人間を受け止めた結果として抱いた感情、ってことだ。
他からの干渉を全く受けずに、コイツ自身が導き出した、偽らざる感情…。そこには何の先入観も何の付加要素もない。
そーゆーのは…悪くねェ。そう思えた。
"俺がどういう人間か”なんてまるで関係なく、ただただ見た目だけで…けっこーな目に合ってきた。
やみくもに怖れ忌み嫌われ…それこそ“人間扱い”すらされねェようなことだって…。
今はもう、誰にどう思われようが何とも思やしねェが…俺にだって可愛らしーガキの時代はあったから。
可愛らしーガキとしては、それ相応にキズついたりもしたワケだ。
アタマ泥に突っ込んでみたりしてなァ。
そーすりゃ他の奴と同じに見えるかも…なーんて……ははっ…今考えりゃバカみてーだけどっ。
もう遠い昔の話だし。今さらそれを掘り起こして感傷に浸るつもりなんざ毛頭ない。
それどころかむしろ…なるべく意識に上らせないようにしてきた。思い出してもおもしろいモンじゃねェし。
それが功を奏したのか、その頃の記憶自体、今じゃもう朧げになりつつある。
それでも。苦い記憶ってやつァなかなか完全に消え去っちゃあくれないモンで。
とんでもない時にヒョイっと顔を出して、おかしな気分だけ残していきやがったりする。
だから、ホント言うといまだに少し…“特別扱い”されるのは苦手かもしれねェ。
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