こねこのワルツ
□Chapter.1
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ぶっちゃけこの世はありえないことが満ち溢れてる。
って…それは結局ありえてるって事か。
Chapter.1 迷い仔猫?
「雨宮愛生高校三年生! 緑栄高校まで案内してくれへんか?」
緑栄高校三年生の大池雄治にそう言ったのは、小学4〜6年生ぐらいの、それはそれは小柄な少女だった。
だがしかし、彼女は高校生と自称した。そのうえ雄治と同じ緑栄高校の女子制服を着ている。
「…小学生は暇だな…」
雄治はそうとだけこぼして、少女を避けて学校を目指して歩き出した。
「あっ、待ってや!」
「ガキに付き合ってる暇はないんでね。しかも俺もうすぐ遅刻だし」
「なんやねんっ! 不親切やなぁっ! 東京モンはこーやから…っ」
少女は俺の後ろにくっついてぐちぐちと何やら言っている。雄治はあえてそれをしかとし、いつもより速く歩いた。
「…」
大分歩いて、振り向いたらそこに少女はいなかった。
「やっと諦めたか…」
「雄治ーっ!」
踵を返し、また再び歩き出そうとすると、後ろから雄治の名前を呼ぶ声がした。少し高めの少年の声。
「おはよっ、ゆーじっ」
「っす、孝汰朗」
雄治に駆け寄ってきた男、武富孝汰朗は、雄治に軽く挨拶し、雄治も返す。
「英語の課題やった? 僕さぁ、少し分からないところがあるんだよねー」
「ああ、俺やってねぇや…聡史に見せてもらうか」
「まったくーっ、他力本願なんだから、雄治は」
孝汰朗は口を尖らせた。雄治より少し背が低く、頼りない細い体をしている孝汰朗。肌も白く綺麗で、女子からはいつも羨ましがられている。天然パーマのかかった髪の毛は、いつも女子がいじっている。雄治にとっては本当に羨ましいやつだ。
「おはよっ、聡史っ」
「うぃっす」
「…ああ、おはよう」
他愛の無い会話をしながら歩き、教室に着いた雄治と考汰朗は、一人の男、五条聡史に挨拶をした。男はそっけなく返したが、まあこういうやつだ。眼鏡をかけていて、秀才で生徒会長で、美形。約束ヨロシク、女子から大人気。性格以外はもう何も文句の無いやつだ。
「なななっ、聡史。英語の課題見せてくんね?」
「またやってきてないのか」
「あはは」
「笑い事じゃないだろう」
聡史は溜息をつきながらも、机の中からノートを出して、雄治に渡した。
「次は無いからな」
「ぷっ…はいはい」
いつもそういって、いつもちゃんと貸してくれている。
「おはよう、五条くん、武富くん、大池くん」
三人のところへやってきたのは、今度は男じゃなくて、女。ふわりとやわらかいいい香りとともに、膝上のスカートからスラっと伸びた長い足、綺麗なくびれ、長くてサラサラの髪が、三人の目に映る。
「おはよーっ、奈央ちゃんっ!」
「ういーっす!」
「おはよう」
白石奈央は、優しく微笑んだ。小さくて綺麗な泣きボクロが上にあがる。
四人は、小学生の頃からの幼馴染。この中で、雄治が一番地味だが、不都合なくここまでやってきた。まあ色々あったが、それはいつか話すとしよう。
こんな感じで、退屈なくらい平凡な毎日が、これから180度…いや、120度くらい変化するなんて、このときの雄治は微塵も思っていなかった。
「はーい、ちょっと早いけどみんな席ついてー」
まだ予鈴のなる十分も前だというのに、先生が教室へ入ってきた。教室の生徒はガタガタと音をたてて席に着く。
「今日は珍しく転校生が来てるんだ。雨宮ーっ、入っていいぞ」
…雨宮? なんか聞いたことがある。つい最近聞いたような気がする。雄治はふと思った。
「ほいなっ♪」
ドアからぴょん、と跳ぶように教室へ入ってきたのは…
「ぁあぁああっ!」
すっかり忘れていた。というか、覚えておく必要もなかったが。
「あーっ! さっきの不親切な東京モン!」
そう、さっきの自称高校生の小学生…。のはずなのに…
「なんでここにいるんだよ!? 小学校向こうだぞ!?」
「ウチは高校生やっちゅーねんっ!」
「てゆーかお前、まず病院行け!」
「何ぃ!? 自分こそ眼科言った方がええんちゃう!?」
二人は言いあいを始めたが、それを先生が止める。
「あーはいはい、何、知り合い? それは好都合。じゃあ雨宮は大池の隣にしよう。大池は雨宮に校内案内しといてね。その前に雨宮、自己紹介しなさい」