灰色の紋章
□第六章 帝国の驚異
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ユレイドルと同行中は魔族どころか生き物一匹現れなかった。
側にいる安心感がつい出てしまいカイツの闘気は消えていた。
一時間ほど歩き山の麓に戻ってきた。
つい先ほど仲間たちの血の雨を経験した一行の顔は疲れ果て窶れていたように見えた。
魔族の討伐という目的は果たされカイツたちはベガスに行き宿のベッドに倒れ込んだ。
翌日…
血の雨など想像出来ない清々しい太陽が顔を出していた。
カイツは噴水広場に行くと顔を思い切り水につけ何かの決心をしたようだ。
"もっと…強くなろう…!"
その決心は曲がることなく、カイツは急遽イリアに別れを告げた。
もちろんイリアは引き止めたがカイツは、
「半年後…ここで会おう」
そう言い残しベガスを後にした。
その寂しそうな背中を眺めながらイリアも一つの目標を立てた。
それは強くなる以前の問題…
冒険者には欠かせない尊号の取得であった。
一人で依頼を請け負いこなしていく後イリアは劇的な変化を遂げることになる。
時はゆっくりと…
そして着実に過ぎていき一週間が過ぎた。
カイツは川のせせらぎを聞きながら草原で途方に暮れていた。
「ガラッドさえいればいろいろ教えてもらえたのに…いろんな所行った挙げ句こんな大陸の端まで来ちゃったな」
そこに一人の30代前半であろう男性が通りかかった。
「お前…その体に纏ってる闘気は何だ…?」
「えっ?」
カイツが自分の体を覗き込むと、腕の辺りが少し光を帯び異様に膨らんでいた。
「な、なんだこれぇー!腕がぁ!」
「慌てんなっ!落ち着いて闘気を腕だけに集中させてみろ!」
「う、腕だけに…」
カイツは無心になり目をゆっくり閉じた。
体からは薄い光が蒸気のように立ち上っていた。
その蒸気はやがて勢いを弱め腕に集まっていった。
「ふぅ…」
カイツは体が楽になったのか一呼吸し目を開けた。
「な、何てガキだ…いきなり能力が開花したってのにあっさり自分のモノにしやがった…こいつは研き応えがありそうだぜ」
カイツは何が起きたのかきょろきょろ辺りを見渡すが、そこに男が歩み寄ってくる。
「小僧…強くなりたいか?」
その問いにカイツの胸は弾けた。
この出会いがカイツの人生を大きく左右することになる。
「俺はワイト。ガキの頃からずっと冒険者やってる。まあ所詮最近やっと尊号を手に入れた落ちぶれ冒険者だけどな」
男…ワイトはがっはっはっと高らかに笑った。
「こいつは言い訳になるかもしれねぇが…俺の目的は依頼を達成することじゃなく、生きた証を手に入れることだ」
ワイトは鼻を手で擦りながら続ける。
「去年のガルエラ武術大会で優勝したんだが…たかがガルエラだけに名を残した程度のことだろ?」
「あの武術大会で優勝なんてすごいよ!」
「いや…俺が目指すのはその先にある…帝国をぶっ潰し六英雄の座を穫ることだ…!!」
「ろ、六英雄…!」
「ああ!英雄なんて肩書きがあったらたまんねぇだろ?それに今の帝国はまじでイカれてやがる…お前はどう思う!?」
「俺…帝国のことは全く知らないんだ」
「あの武力国…エンプレム帝国を知らねぇのか!?やつらはこのウールガリ大陸のほぼ全ての町や都市を植民地化しやがった…魔の手から逃れてるのはベガスと港町バベルくらいなもんだ」
「し、知らなかった…まさか英雄所在のウールガリ大陸が帝国に支配されてるなんて…ってことは帝国とベガスは今まさに一発触発ってわけか」
カイツの推理は当たっていた。
「その通りだ…六英雄は今年中には帝国への総攻撃を仕掛けるって噂だ…!」
「今の時代になって戦争なんて馬鹿げてる…止めなきゃこのウールガリ大陸の歴史は…」
「崩壊するだろうな…偉大な大地は老廃するが帝国は力で屈服しに来やがる…それには力で答えなきゃいけねぇのさ」
ワイトは間髪入れず答えたが次はカイツがすぐに答えを返した。
「間違ってる!俺は俺のやり方で帝国を止めてみせる…!!」
「大した自信だな。ガキ一匹飛び込んだところですぐ弾き出されて終わりだ」
「だから強くなりたいんだ…教えてくれ…俺に闘気の使い方を…!!」
「…」
ワイトは腕組みをし悩んだが答えは既に頭の中にあった。
「来な…耐え抜く覚悟があるならな…!」