灰色の紋章

□第十六章 崩壊獣の正体
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「さて…ここで相談なんじゃが…」


ゼイラルは天井に張り付いていたが、軽い身のこなしで跳び下りる。


そして真横の部屋から更にこのし烈な戦いになるであろう場に獣が姿を現す。


「自惚れるな。この場では暴力こそが力を持つ。話し合いなどする気はないが?」


「ほう…魔族か。やつらが今日帝国に攻めてくるという噂は本当だったか」

赤い鎧の大男、紅蓮が言った。


「つまりは…ここで生き残ったもののみが勝者。そういうことでいいんだろう?」

ラオサムは棒を器用に手にとり言った。

このはりつめた空気の中なかなか動くことはできないだろう。

しかし長年の経験を持つ超熟練者が最初に動きを見せた。



ゼイラルは凄まじい瞬発力により狙いを定め飛び出す。


狙いは帝国軍第2級隊長ウォールア。


(くっ、速い…!)


ウォーリアはとっさに腕をクロスし防御体勢。
ゼイラルは拳に闘気を集め右ストレート。


「ガッッ!!」


ゼイラルの右ストレートは真横からの鎧により防がれる。


「その男には聞きたいことがある。殺されては困るな」


ゼイラルの極限のパワーを秘めた拳を止めたのは紅蓮だった。


「わしの拳を止める人間なんざこの世にいないと思ってたんじゃがな…歳はとりたくないもんだ」


「とにかく殺すなら他の者にしてもらおうか」


睨み合う二人。
そして悔しい表情を浮かべるウォーリア。


「一瞬のよそ見が命取り」


紅蓮は上空からの声に反応する。
棒から糸のようなものが噴出され紅蓮はその糸に絡まる。

ゼイラルは持ち味の瞬発力により回避していたが、既にラオサムの背後にいた。


「星の破壊拳(スターダスト)……!」



「ビキッッッ!!!」


大木が真っ二つに折れたときのような嫌な音が城内に鳴り響いた。


「がはっ…ぐ!」


ラオサムは苦しみながらも棒から出た糸は離さなかった。


「腰がイカれるっ…あのガタイでなんというパワー…!」


休む暇などない。
ラオサムは手に持っていた棒から黄色い光を発しそれは糸へと伝っていく。


「ビリッッ!!」


糸を数百万ボルトの電撃が伝い、紅蓮に襲いかかる。

「ぐっ…体が…!」


紅蓮はダメージはさほどないようだが体の自由を奪われる。

そこに牙を生やした不気味なシルエットが姿を現す。
オレンジに輝く毛の生えた皮膚、ウエストは蟷螂のように細いが皮膚は鋼鉄を誇る四守護獣キマリザ。


「スパッッ…」


暗闇に一筋の閃光が走った。

その刹那、紅蓮の肩からおびただしいほどの出血。

「ほう…手刀か。それも恐ろしく速い。恐らくあの長い腕を鞭のように使い速度を速めている…手強いのう…!」


ゼイラルは思考を巡らしながらも素早い移動でラオサムの真横につく。


「わしを恨むなよ。恨むなら主のしてきた後悔の数々を恨むがよい」

ゼイラルの拳は再び力強さを増し、カイツの気溜壊とは比べ物にならないほど強く一瞬にしてパワーは溜まる。

放とうとしたが自らの体の異変に気づく。

見えない透明の糸により身体中が絡まっていた。
動けず力を貯めた拳を突き出すことができない。

「ビリッッ!!」

再び電撃が迸りゼイラルの体を襲う。




その隙をつこうと負傷したラオサム、そして紅蓮以外のその他の者が一斉にゼイラルに迫ってきた。


誰もがこの絶好のチャンスを逃さんとばかりに破壊的なパワーをゼイラルにぶつけようとした。
近くにいたラオサムがゼイラルの瞳を覗いた時のことだった。


ゼイラルの瞳がまるで宇宙のようで、吸い込まれるかのごとく何色にもたとえようのない色となりラオサムは技を出せなかった。


「お主ら今の自分の立場が分かってないようじゃのう…なあ?ラオサム君や…?」


この時ラオサムは恐怖というよりも尊敬の意を表した。

電撃など効いていない。
よって至近距離にいるラオサムを殺すことは容易いことだった。
しかしゼイラルは敢えて力で制圧せず眼力で戦意を削いだのだ。
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