灰色の紋章

□第十六章 崩壊獣の正体
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「この…じじい…くそっ!」


ラオサムは動くことがどうしてもできない。

この均衡を破ったのは帝国軍隊長のウォールアだった。

「動けんこともないな。さっきの借りを返すとしよう」

ウォールアは腰に備えていた紫色の液体が滴り落ちる短刀を手に取りゼイラルに斬りかかる。



「なんじゃそれは?おままごとでもしたいのかい?」


ゼイラルは短刀の先を親指と人差し指で白羽取りのように掴んで見せた。


「ばかな…だが!毒は確実にっ…」


「ない脳みそでよーく考えてみろ。電気が効かない人間に毒が効くと思うかい?赤子でも分かるわな」


「貴様ぁ!!」


ゼイラルは短刀を指先で軽々と折る。

そしてデコピンの構え。



「ビンッッ!!!」



ウォールアのでこは勢いよく弾け気づいたら数十メートル彼方に弾け飛んでいた。


「はあはあ…何を…」


ウォールアは何が起きたかさえ分かっていなかった。


「赤子の出る幕じゃないわい。紅蓮君。そやつは君に任せたぞい」


城内の荒れた広場に老人とは思えない図太い声が響き渡る。
それを他の者たちは身動き一つせず見ていた。


「やつに会ったのは今回が初めてだが分かる…」






"まさに人間離れした怪物…!!"



獣であるキマリザすら生物離れした未曾有の力を秘めた人間に恐れをなしていた。




「お?ここらで終戦かの?それならちっとばかし話聞いてくれんかのう?」


「話だと?この場では武力のみが力を持つと言ったはずだ。人間の言葉などなんの力もない」

周囲の戦況をじっと見ていたキマリザが言った。


「なあに…簡単な提案じゃよ」


場は静まり返る。


「そろそろ魔族の軍団も攻めてきて荒れることが予想されるんじゃが…外でやらんか?わしらが暴れたらこの城ももたんしのう」


「かわまん」


紅蓮以外のものも承諾した。



五人は階段を下り、城の出口へと向かう。




その途中、負傷していたウォールアの足取りは重かった。

決してこの戦いに勝利する自信がないわけではない。



危機の察知。

その嫌な予感はまさに的中し、ウォールアは背後から今にも嘔吐したくなるほど不気味な闘気に触れた。


体はその時点で硬直する。

まるで電撃を浴びたかのようにウォールアの体は固くなっていた。



そして…この数秒後、ウォールア以外の四人は未曾有の力を持った悪魔と遭遇することとなる。



「ガシッ…ミシミシッ…!」


「うごぁーー!!!」


ウォールアは背後から頭を何者かに掴まれ痛みに苦しむ。


「ザンッ!!」


なんと背後にいた男はウォールアの頭を掴みながら投げ飛ばし壁に勢いよく激突し埋もれた。


「確かにこいつは邪魔者としか言えんな。的を得ている」


こつこつと足音を立てながら男は近づいてきた。


ゼイラルすらも動くことができず様子を見ている。


「ここに集まった者はみなが常軌を逸した力を持った者…とてつもない強者が集まってくれたものだ」


男は両腕を広げながら言った。




「外へ出ようか…!」


男の一言により四人は城外へと歩を進める。

その足取りは重く、かつてない危機を察知していた。



「お主…何者だ?人間にも魔族にも見えんのう」


「グォータン…神に選ばれし第三の種族だ。我が種は最強にして孤高の種族…よってグォータンはこの世に一人存在すればいい。崩壊獣ドラグレアはこれより新たな存在として生まれ変わるのだ」


「話が見えんのう…お主、何がしたいんだ?」


ゼイラルが言った。


「関係のないこと…我が計画の邪魔になる者は消すのみだ」


「ほう…それなら話は早い…!」


紅蓮は体に力強い闘気を纏い、男…メルガンに向かっていく。


「ガシッッ!」


紅蓮の大きな拳はメルガンの腕によって防がれた。


「言葉だけでは分からないか…それならば…」


「ズゴォッッ!!!」


紅蓮の腹部にメルガンの強烈な拳が襲いかかる。

その力強さに紅蓮は吐血し、地面に膝をついた。


「失せろ…!」

メルガンは手のひらを紅蓮に向けた。


「ズゴッッ!!」


衝撃波のようなものが紅蓮の顔面を襲い遥か彼方まで吹き飛んだ。


「たった二撃で…やつは一体…」

ラオサムはメルガンの戦闘能力を瞬時に把握し、棒を強く握りしめた。


「ラオサム君や…ありゃ二人でかからんと痛み目見るぞ」


「そうするしかなさそうだ…」


ラオサムとゼイラルは凄まじいスピードでメルガンに迫っていく。


そこに、


「ガブッッ!!!」


「ぐあっ!?」


ラオサムの肩にはキマリザの鋭い牙が食い込んでいた。

キマリザは噛みつきながら顎の力だけでラオサムを投げ飛ばした。
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