灰色の紋章
□第七章 成長した志
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二人は数分走り、開けた川に腰を下ろした。
「ごめん。あのまま戦ってたら多分負けてた」
「まったく…ひとまず顔洗って気持ち入れ換えなさい」
カイツは川の水を思いきり顔にかけた。
これで少しは心のもやもやは解消されただろう。
「ここ…どこだと思う…?」
イリアはカイツの顔から目をそらしながら言った。
「この川…ワイトさんと初めて会った場所だ…」
ワイト…半年前カイツに闘気の使い方を教えた師匠の名である。
「よう?苦戦してるようだな」
「あっ…」
少し髭を生やし、中年ながらも若々しい体つきの男が立っていた。
弱かった自分をここまで鍛えてくれた師匠…
生きるきっかけを与えてくれた存在。
若き虎…
高恩の師匠との…
"全身全霊の恩を込めた再開…!"
「ワイトさんっ!」
カイツは立ち上がりワイトに駆け寄る。
「あなたに…会いたかった…!」
「へっ…嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。で…相手は怒拳アントリーか?」
「うん…さっき会ったんだけどやっぱり星を掲げる冒険者は桁違いだったよ」
「二ツ星か…やつの知識は半端じゃねぇ。お前さんとの経験の差は天と地ってわけだ」
ワイトはわざと嫌らしく言った。
「でも…今はなぜか…負ける気がしないんだ…!!」
カイツの立ち上る闘気を感じ、ワイトはにやりと笑った。
「ああ…実際格闘能力は五分五分ってとこだ。だがやつほどの経験者になると戦闘のこつってもんが体に染み付いちまってる」
数十年の冒険歴を誇るアントリー…あの妙な落ち着きはこれで証明できる。
「もうお前に教えることはないがやつほどの男になるとやっかいだ…苦し紛れのアントリー対策でもしてみるか?」
カイツはゆっくりと頷き、頭を下げた。
こうしてカイツとイリアはベテラン冒険者ワイトとの修行に励んだ。
森での生活が二日続いた。
アントリーとの接触は一切なく順調に特訓は行われていた。
森という視界の悪い中でどう動けるかが鍵になるようだ。
「よし!まあ対策と言えばこんなもんだな。んじゃ最後にあれをやるか」
ワイトはおもむろに懐から棘のついた鉄線を取り出した。
それを地面に広げる。
「久しぶりだなー!最初は血だらけになって泣いてたっけ」
カイツの言葉にイリアはぽかんとなる。
カイツは服を脱ぎ集中してから鉄線の上にあぐらをかき始めた。
「闘気をどれだけ放出していられるか…いわゆる持久力の強化だ。闘気が緩むと棘はたちまち体にくい込み蝕む…!」
イリアはゴクッと唾を飲み込み、精神を集中させた。
「…!?」
(ほう…こっちの子も大した闘気じゃねぇか。こいつら…数年後化けるぜ…!!)
ワイトは少し怪しげに笑い、イリアが鉄線に苦戦している様を見ていた。