灰色の紋章
□第九章 新たな勢力
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カラウィはその気迫に押され退く。
「ごめん…」
そう言い残すとカイツはこの荒れた闘技場を駆け抜けていった。
その光景に気づかなかったイリアはやっとカイツがいないことに気づく。
ポカンと立ち尽くすカラウィに目をやりながらもイリアはこの戦いに専念した。
"そこまでだ!!"
闘技場全体を揺るがすほどの怒声に皆動きを止める。
「今回の武術大会は中止だ!こんな醜い戦いしても残るもんなんざねぇ!!」
その低く荒々しい声にイリアは聞き覚えがあった。
「ガラッドッッ!!!」
イリアは生きていたガラッドに飛び付こうとしたが、
「それどころじゃねぇんだ!!とうとうベガスとガルエラが衝突しやがった!このままじゃ莫大な犠牲が出る」
「そ、そんなっ…」
「カイツはどこだ!?」
ガラッドは辺りを見渡す。
「戦場に自ら飛び込んでいったで。はよ止めんと…」
「くそっ!あのバカ…!!」
「ズバッッ!!」
ガラッドは闘技場の壁をぶち壊すと、すさまじい速さで外へと飛び出した。
"ちっ…!相変わらず無茶しやがるぜ…死ぬんじゃねぇぞ…!!"
翌朝、ガラッドは港の片隅で壁に背中をつけ座り込んでいた。
「遅かったか…」
「本当に無茶よ…なんで一人で…」
イリアも港にいた。
「とりあえず俺たちもすぐウールガリ大陸のベガス国に向かう。戦争がどうなってるかは知らねぇが行くしかねぇ」
二人は早朝の船に乗り込んだ。
カイツが見た光景、
それは何万人もの人間が武器を振り回し殺し合う光景だった。
悲しみの怒号は鳴り止まぬことなく、ベガス国の街は鮮血に染まり火が放たれていた。
「「なんで…同じ人間なのに!殺し合わなきゃいけないんだああぁーー!!」」
無惨な死体が転がるベガスを見て、カイツの精神は再び崩壊した。
奇声を発し体には灰色の痣がいくつも浮き出ていて、武器を振り回す兵士を気にもかけずただがむしゃらに駆け出していった。
"ザワッッッ…!!!"
カイツの全身に重たく、凍りつくような、桁外れを誇る闘気がまとわりついた。
「何をするつもりだ?」
エンプレム帝国一級兵隊長、ロゼ・バリラフェル。
一級から十級まである中でトップの階級を誇る帝国最強の主力。
白く大きなマントを羽織い、髪はオールバックで黒、背丈は180cm程。
「中級冒険者…閃光の虎だろ?これ以上軍の私情には首を突っ込むな」
「私情だと!?お前たちはたかが私情で人を殺すのか?何も関係ない市民にまで害を与えるのかっ!?お前ら帝国がガルエラをそそのかしたのは知ってるんだ…なんでそこまでして領土拡大に拘るんだ!!」
「領土か…そんなもの我が帝王の浅はかな理想にすぎんさ。人間形としては王に従う下僕にすぎんがみな野心を持っているものだ」
「野心…だと?」
「名声さ。少なくとも我が帝国の輩はみな六英雄の首が目当てだろう」
ベガスとガルエラがぶつかることにより、弱者…つまりうじゃうじゃいる邪魔者は戦争により消え去る。
その邪魔者のいないベガスの六英雄の首を取ろうという目論見だったのだ。
「そんなこと…させるかっ!!」
カイツは自慢のスピードで距離をつめる。
「ズガッッ!!」
カイツは一歩も動くことのないロゼに軽々と殴り飛ばされた。
ロゼの拳は恐ろしく素早く常人の目には見えなかった。