「ねえ何かやっぱ今日変だよ、骸。体調悪いんだったら気なんて使わなくていいからさ、寝ててよ。もし酷いようだったらさ、病院に行こう?俺もついていくから」

いえ、僕が変なのは体調が優れないからではなく十中八九、今の状態が原因です(因みにあなたも含まれています)。
いくら僕でもね、びっくりすることだってあるんです。僕だって人間ですからね・・・そりゃあ今まで生きてきて、あり得ないことのひとつやふたつ、遭遇したことだってありますよ。ええありますとも。
・・・現に僕の能力、この右目の力だって、世間一般から考えればあり得ないでしょうしね。
だがいやしかし、今まで遭遇した中でこれは・・・さすがに度を超しているというか、輪をかけておかしい。


自分は男であったのに女になっていて、しかも目の前の男と同棲しているだなんて事!

あり得ない・・・ありえない!


目の前で心配そうな顔をして僕の額に手を当てているのは、沢田綱吉、憎むべきイタリアンマフィアのボス、その人だった。



・・・・・・・・・・・・。



そして僕は女になっていた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あり得ない。







君と僕とで生み出す






話はほんの10分、いや20分前にさかのぼる。
いつものようにクロームの身体を借りて、いつものようにバカなマフィアの連中を騙し、抗争を起こさせて、いつものように眠った。

・・・はずだった。

それが昨日だ。

いつも目覚めれば暗闇が広がっているばずなのに、なぜか今日は辺りがまぶしかった。薄目をあけると、カーテンの隙間からのぞいている太陽の光だということに気がついた。
この時点で何かおかしいと思ったのだ、確かに。
でもまあなんだかベッドは気持ち良かったし、このまどろみの中に自分をもう少し置いておくのもいいか、なんて思って再び目を閉じた、途端。

「骸、朝ごはんできたよ。早く起きて」

気配もなくいきなり枕元でそう囁かれたら、僕でなくとも飛び起きただろう。断言できる。

「・・・!」
「・・・っ」 

無言で僕は飛び起きた。
額に鋭い衝撃が走る。
反射的にそこを手で押さえてから、初めて目の前の人物を見た。

栗色の瞳に涙目。
ほんのり染まる、赤い頬。
メープルシロップのような髪。

「さわだつなよし・・・」

平仮名なのはご愛嬌。
僕なりに驚いていたのだ。
すると彼は顔に疑問符を浮かべながら、それでも笑顔で、

「何?いっつも会ってるでしょ?どうしたんだよ、とぼけた顔して・・・いきなり起き上がるからびっくりしたよー」

それでも骸はかわいいけどねー!
・・・なんていいながら照れている。
その脈絡のない“かわいい”宣言が気になった。

この僕が、“かわいい”?

そういえば、発した声も僅かばかり高かった気が・・・

・・・・・・・・・・・。

自分の顔が急激に青ざめていくのがわかった。
自分の考えていることが間違いであってほしいとこんなに願ったのは、未だかつてあっただろうか。

「・・・・・・骸?」

僕の名前を呼んだ人物を押しのけて、部屋を出て鏡を探した。
洗面台を見つけて駆け寄る。

そこで僕は絶句した。

鏡に映っていたのは見慣れたいつもの僕ではなく、青ざめた顔をした、スタイルのいい僕似の女性。



ハア・・・



落ち着きなさい、僕。
こんなふざけた状況、幻術以外にあり得ません。
幻術、以外・・・に・・・・・・。

意識を集中させて打ち破ろうとするが、それは全く意味を成さなかった。
これだけ大掛かりな幻術というと、どこか不自然であったり違和感があったりするのだが、それらは何一つ存在していなかった。
そもそも僕を完全にはめる術師などこの世には存在していないと自負しているし(これは決して自惚れなどではない)、これほど大規模で強力な幻術をつくり、維持するのは並大抵の人間はおろか、地球上に存在すらしていないだろう。
つまり、現実ということだ。
これで世界は完結した状態。


・・・・・・・・・・・・あり得ない。


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