BLUE SKY BLUE EYES
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第8話「君の紙飛行機」
朝練のために早く登校する。
…名無しさんさんと通学したこの路。
最近僕は、名無しさんさんと話せないでいる。
毎日毎日無性に名無しさんさんの事が気になって、僕が名無しさんさんに触れたいと思いだしたのはいつごろからだろう。
名無しさんさんも最近元気がない。
それは僕が原因なのは分かっている。
僕が名無しさんさんと避けているから。
その理由は明らかだ。
僕が名無しさんさん自身に求め過ぎてしまうから。
あの握りしめた小さな手も、
緊張して冷たくなった温度も、照れて赤くなった頬も、
そして、あの柔らかかった唇も、あの時の顔だって。
すべてが僕に向けられたものだと思うと嬉しくてたまらない。
愛しくて、怖い。
まだ気持ちも伝えていない今、僕は名無しさんさんに多くを求めてしまっていた。
これは、僕のけじめであり、反省だ。
君がいつも見ていた空を見上げる。
「おい!黒子!」
「!」
火神くんの言葉で目が覚める。
「あ、すみません」
「最近どうした!?プレーのときも心此処に在らずだしよ、
な、名無しさんも元気がなさそうだし…」
火神くんは照れたようにそっぽを向く。
「…僕を心配してくれているのは有り難いですが…
名無しさんさんは僕のものです」
「んなっ!?」
火神くんは赤面していた。どうやらほんとうに驚いているらしい。
「分かったよ…、ったく、俺の気持ちは良いんだが、あんまり…その…
な、名無しさんを悲しませんなよ」
そう言って足早に去っていく火神くん。
ふいに口が綻ぶ。
「ありがとうございます」
そうですね、僕も名無しさんさんの笑っている顔が好きです。
早めに着替えを済ませて教室に戻る。
この間は遅刻しそうになって教室で着替えてしまったのである。
机の中に教科書や必要最低限のものを入れる時、
グシャ、と紙が折れ曲がる音がしたので慌てて手を引っ込めて中を見ると、
それは紙飛行機であった。
「?」
謎だ。なぜこんなところに紙飛行機が…
ふと空を見上げる。
飛行機雲が尾を引いていた。
紙飛行機をその飛行機雲に合わせる。
するとどうだろうか。
日の光が当たって紙に何かが書かれていることが分かる。
紙飛行機を解体すると、
そこに書かれていた文字は…
“君が好きだよ”の愛の言葉。
…この字は名無しさんさんでしょうか。
不確かなものだが、何度かノートを見せてもらったことがある。
「…名無しさん」
彼女の名前を呟く。
『ぇ』
「…」
何が起きたのか分からなかった。
空を見ながら私が作った紙飛行機の中身を片手に私の名前を呼んでいたのだから。
悲惨な事に私は小さく声をあげてしまった。
「…名無しさんさん」
『あっいやっえとこれは…』
焦って弁解しようにも思いつかない。
「この紙飛行機、名無しさんさんのですか」
『う、はい…』
「これ…僕の机の中に入っていたんですが…
僕宛に飛んできた紙飛行機ですか?」
嗚呼。届いてしまった。
『うん』
「この内容は本当ですか?」
『うん…っ』
黒子くんは再び紙飛行機に目を移したかと思うとまっすぐ私を見た。
『あっ黒子くんが迷惑なら返事もなにもいらないからっ』
とっさに口走った嘘の言葉。
「…じゃあ、あとで」
あれからの授業は身が入らなかった。
空を見ると同時に空色の彼がなにか一生懸命書いていた。
ぼけーっと最後の授業を聞いていると、
小さな紙が飛んできた。
飛んできた方向をみると、
それは黒子君からで、
見てください、とジェスチャーされた。
私は言われるがままに紙を開く。